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誘い人


 IH予選から数日のある日、お昼休みに教室の入り口でじーっと室内を見回している人がいて、その綺麗なオレンジの髪には見覚えがあった。

「あれ、日向?」
「おう!山口」
「へー、日向がウチに何の用?」
「なんだよ!少なくともお前にじゃないぞ!」

 蛍くんと山口くんが入り口に立って一緒になって騒いでいるのは、確か日向くんだ。ジャンプ力がすごい10番くん。試合のとき、凄かったなぁ。
 成り行きを机から少しだけ覗いていると、何故かハッキリと日向くんと目が合ってしまった。

「あ、あー!そうだ、みょうじさん!」
「え……私?」
「そうそう!ちょっと来て!」
「はぁ?日向がなまえに何の用な訳?」

 蛍くんの抗議の声も、日向くんの笑顔を曇らせることはなくて。ブンブン手を振る相手を無視する勇気もなく、三人の元に小走りで駆け寄る。
 私、何かしたかな?

「な、な、何でしょうか」
「みょうじさん!緊張し過ぎだよ!」
「ああ、初対面の人は駄目なんだっけ?」

 山口くんの心配にも、フンと鼻を鳴らしながら小馬鹿にしてくる蛍くんにも反応出来ないまま、頭の中では自分の過失を探している。
 全然心当たりがない!寧ろそれが失礼に当たったらどうしよう。

「あ、あの。申し訳……」
「へ?俺まだ何も言ってないけど」
「なまえ、ちょっとこっち見て」
「う、え?」

 蛍くんが両頬を掴んでぐっと上を向かせてくる。首が痛いくらい顔を上げれば、蛍くんが顔を付き合わせてくれているのが分かった。
 顔、近い!近いよ!何だかあの日から、少し蛍くんが物理的に近いと感じることが多くなった気がする。

「これ、日向。緊張とか必要ないから」
「……っ!これとか何だよ!」
(うわー!うわぁ!)

 ワンテンポ遅れてきた反論に視線を横に向ければ、山口くんが真っ赤になって口を抑えているのが見えた。あ、私、蛍くんに顔掴まれて……うわああああ!

「だ、大丈夫!もう何でも大丈夫!」
「なぁ!みょうじさん、借りていい?」
「日向!空気読もうよ!」
「山口うるさい」

 教室の入り口で、すっかり注目を集めてしまっていて恥ずかしい。

「だから、日向がなまえに何の用?」
「俺じゃなくて!潔……清水さんが!」
「「はい?」」

 二人が綺麗に聞き返す間、清水さんって誰だろうと考える。知り合いではない気がするけど、日向くんの呼びかけに応えた時点でついていくしかないんだなって。
 もう、私が行くことを前提に喋っている日向くんを見ながら思った。



 日向くんにつれていかれた先で、清水さんという三年生の綺麗なお姉さんが待っていた。緊張し過ぎて最初は日向くんと清水さんが喋っている内容を聞いていなかったけど。
 どうやら、私はバレー部のマネージャーにならないかと勧誘を受けているらしい。日向くんはマネージャーである清水さんのお手伝い。
 一年生の中で部活に所属していない人間に、一人一人声をかけているみたいだった。私が部活に入っていないのは友達から聞いたようだ。
 恐るべき、日向くんのコミュニケーション能力の高さ。正直羨ましい。

「でね、部活に入ってないのなら……」
「すみません!」

 形の良い唇が動くのを見惚れそうになるくらい見ていたいけど。私にはその資格がないから、謝るしか出来ない。

「部活は入ってないんですが、家業の手伝いがあるので放課後は予定があって」
「そうなの?」
「はい、でもやらされている訳ではなくて、夢というか……真剣なんです」
「そっか、すごいね」

 いきなり何言い出すんだろうって思われているかもしれない。でも、あの試合を見ちゃったから。バレー部が真剣な人達ばかりだって、知っている。
 先輩が一年生の教室まで来て一人一人に説明するなんて、勇気がいることだと思う。私もその気持ちに、ちゃんと返さなきゃならないと思うから。

「はい、だからマネージャーは出来ないです。すみません」
「うん。ありがとう」

 笑うと殊更綺麗なこの人は、年下の私にまで丁寧に接してくれた。ついでに他に部活に入っていない人を知らないかと聞かれたので、友達にはいませんと答える。
 烏野って結構部活動盛んだから、所属していない人自体が少ない。でも、見つかるといいな。

「ふふ、ごめんねって月島くんにも言った方がいいのかな?」
「え?」
「もういいですか?」

 いつの間に後ろにいたのか、蛍くんが私の真後ろに立っていて。ぐっと片腕を引かれたら、そのまま蛍くんの方に引き寄せられた。
 驚きすぎて蛍くんを見上げていると、キョロキョロと周りを見回して何かを警戒している様に見える。一体何があるんだろう?

「他の子に声かけに行ってくれてる」
「……そーですか」

 主語がない会話を成立させる二人に、頭には疑問しか沸かない。私はよっぽど間抜けな顔をしていたのか、上から蛍くんの大きな右手が降ってきて。
 目を覆われて視界が遮られた。

「なまえはいいから。帰るよ」
「え、あの?」
「失礼します」
「もう!あ、ありがとうございました!」
「ふふ、なまえちゃん。またね?」

 慌てて手を押しのけると、清水さんのにっこりとした顔があって。美しすぎて心の中で叫びつつ、お礼を言うとまたねと言われた。
 またねって、どういう意味だろう。この時はあまり深く考えずに、ただ必死に頭を下げるだけだった。



***続***

20140419

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