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班の裏事情


 山の頂上付近にはキャンプ施設が作られていて、そこでご飯を炊いてカレーを作るのが今回の本当の目的らしい。
 ここまで来るの、長かったなぁ。周りを見渡しても、疲れて肩で息をしている子も多い。

「本当に一から作るとか……」
「えっと、お米洗って火を起こして炊いて、カレーはルーとあそこに並んでいる食材なら何でも入れていいんだって!」

 ずらーっとテーブルに並べられているのは、香辛料や調味料、ヨーグルトや林檎といったカレーに入れる定番のものまで様々。
 ちょっと楽しそう。品名が書いてないから、ここからじゃ香辛料の名前まで分からないけど。先生たちも、結構楽しんでいる様に思う。

「なに楽しそうにしてんの?」
「えっ!ちょっと面白そうかなって……」
「野菜とルーと肉だけはこっちに置いてあるよ!」

 山口くんが指差した先、私達の班の机には玉葱や人参が置いてあった。ピーラーはないけど、包丁とまな板も。
 
「じゃあみょうじさんはカレー作ってよ!山口くんはお米研いで!」

 班のもう一人の女の子がハキハキしていて、指示を出してくれる。私は指をさされて吃驚しつつ、うんと頷く。

「私と月島くん、火を起こすための木を集めてくるから!じゃあ、行こう!」
「はぁ?ちょっと……」
「早くしないとお米もカレーも作れないよー!」

 ぐいぐいと押されていく蛍くんと、ポカーンと突っ立ったままの私と山口くん。完全にその子の空気に呑まれてしまった。
 指示をしてくれるのは助かったと思っていたのに、何でだろう。胸がちくっと痛むのは。

「あー……俺、お米と水貰ってくる」
「う、うん。私も野菜洗うよ」

 簡易キャンプ場のような場所に、綺麗なキッチンなど存在しない。流しにまな板を固定して、切ったものからボウルに移していく。
 その横で山口くんがお米を洗っている。ちょっとお米がパラパラと飛び散っているけど、言った方がいいのかな?

「大丈夫、すぐ帰ってくるよ!」
「……え!?」
「ツッキー。火を起こすって言ってもバーナーあるし着火剤あるし……適当な木でいいと思うし!」

 こっちを向いた山口くんがにこっと笑うと、そばかすが一緒になって動く。山口くんには、どうして私が不安に思っていたことが分かるんだろう。

「……今更だけど、蛍くんってモテるね」
「うん。俺、女子に喋りかけられた!と思ったら、皆ツッキーのこと聞いてくるし……」

 今度はしょんぼりしながらお米を洗っている姿に、何だか可愛いと思ってしまった。それだけではないと思うんだけどなぁ。
 山口くんは気さくで優しい感じが一目で分かるから、皆頼ってしまうんじゃないかな。

「うーん……本当は山口くんと仲良くしたい子もいるんじゃないのかな?」
「えー?だってツッキーのことしか聞かれないよ?」
「わ、私は最初、山口くんみたいな良い人が何で蛍くんなんかと仲良しなんだろうって思ってた位だから……あんまり当てにならないかもだけど」

 そこまで言ったところで、山口くんは口をぶっと噴出した。お恥ずかしい。心の中ですごく嫌なことを考えていた訳だし。

「超意外!」
「そうかな?」
「うん!みょうじさんって大人しいだけじゃないんだー!」

 私は大人しいつもりなんかないんだけど。やっぱり、同世代の初対面の人には緊張して上手く喋れないのがいけないのかもしれない。

「でも二人は本当に仲良しだね。班も同じって、すごい偶然!」

 入学式の時のことを聞かれたらマズイ気がして、話題を逸らしてしまった。でも、山口くんになら言っても大丈夫な気がする。

「……あはは!」
「山口くん?」
「いや、ごめん!そっか。そうだよなー」

 一人で納得顔の山口くんが、嬉しそうに笑っている。それを見てどうしていいか分からない私は、本当に対人スキルがない。
 山口くんはひとしきり笑った後、右手の人差し指を立ててこっちを見た。その顔が何だか楽しんでいるみたいに見えて、私は少し身構える。

「一つ、イイコト教えてあげる」
「な、何?」
「ツッキー、元々この班じゃないよ?」
「え?え、だって……」
「班決めのとき、黒板に名前書き出しただろ?アレでちょっとねー……?」

 尚もニヤニヤと含み笑いを繰り出す山口くんに、混乱して頭を捻る私。黒板に書いた時に引いた籤とは違うところに書いたってことだろうけど、他の人は困らなかったのかな?

「じゃあ、元々この班予定の人は……」
「文句言おうとしたけど、ツッキーの引いた紙渡されて終わり!流石ツッキーだよね!」

 流石の意味はイマイチぴんと来ないんだけど。まぁ、相手が引き下がった気持ちは分からなくもない。私も同じ立場なら、渡された紙の番号の所に名前を書くと思うから。

「ツッキーも可愛いところあるでしょ?よっぽどみょうじさんと同じ班が良かったんだな!」
「え、山口くんと同じってことじゃ……」
「だって、俺!みょうじさんより後に黒板に書いたじゃん!」

 そう言われて班決めの時を思い出す。ごった返す黒板前で、私のチョークを受け取った蛍くんが、そのまま隣に月島と書いていたことに。
 その時、嬉しく思ったことさえも。一気にフラッシュバックする。

「あはは!顔真っ赤!」
「や、山口くん!」

 大笑いする山口くんがザルを手放したから、流しにお米が少し零れて。慌てて洗いなおしている間に、不機嫌顔の蛍くんが帰ってきた。
 私はその顔を直視出来なくて、再び山口くんにニヤニヤと笑われることになってしまった。



***続***

20140130

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