×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


別に、それだけ


「おい月島、今の……」
「何?王様。入ったんだからいいデショ」
「月島、お前なぁ……!」
「ほらー!喧嘩するなぁ!」

 主将の声と顔の表情が合っていなくて、危険信号だって分かっていたのに無視をした。だって自分でも嫌になるくらい自覚している。
 今日の僕がひたすら機嫌が悪く、周りにも悪影響だってこと。



「ツッキー、どうしたの?」
「別に……」
「月島ぁ!お前今日変だったぞ?大丈夫かぁ!?」

 練習終わりにロッカーで着替えていたら、案の定田中さんに絡まれた。想定内のことだったけれど、真っ直ぐに聞いてくる田中さんを上手くかわせない。
 本当に苦手。だって適当に言ってもしつこく食い下がってくるに決まっているし。

「そうですか?」
「おうよ!影山への嫌味にもいつものキレがなかったぞ!」

 元気よく辛辣な言葉をズバズバ言うのは西谷さんで、この人本当にどうかと思う。裏表なくていい人なんだろうけど。

「コラ。月島をからかうなよー。誰だって調子の悪い時くらいあるだろー」

 眉毛を垂れて笑うのは菅原さんで、その目がこっちに向けられているのに気が付いたけど見ないフリをした。全く、僕を話題の中心に据えるのは止めて欲しい。
 その為にもこんな状態は早くリセットしたいんだけど。全然その糸口が掴めない。ここ何日かずっと苛々している。
 馬鹿みたいだ、原因は重々承知の上なのに。

「あのさ」
「あん!?」

 急に王様に話題を振ったものだから、相手はえらく困惑した顔をしていた。相変わらず、不機嫌丸出しだけど。僕が喋りかけたら駄目なんですかねぇ?

「……及川さん、だっけ?」
「は?」

 王様の先輩だから、大王様。及川徹。
 ピンチサーバーで出た時は狙われてむかついたけど、技術は本物ですごい人だった。黄色い声援もすごくて、モテるんだろうなって感じ。
 別に、そこまで興味ないけど。

「大王様!」
「あいつかー!ムカつく!」
「こら!ムカつくなんて言っちゃ駄目だろ」
「じゃあ変更します。不愉快な輩です」
「龍、潔良いな!」

 日向が大声で叫ぶから、部室中に話題が広がって。気付かれないようにそっと舌打ちをした。山口には聞こえていただろうけど。

 いや、大王様だけじゃない。会場内で試合をしている他の人間も。試合をしていて、強い人間は格好良く見えるんじゃないかって。
 そんなの、今まで気にしたことも興味もなかったのに。

「……くそ」
「ツッキー?」
「お疲れ様です」

 なまえは試合を応援に行きたいって言ったけど。僕は本音を言うと来て欲しくない。だって一人で来たら危ないじゃないか。
 田中さんや西谷さんみたいな人間がいたらどうする?他校のマネージャーすら声かけようとする馬鹿だっているのに?
 僕の小さい頃の試合観戦の記憶とは無関係に、これは問題だった。

「待ってよ!ツッキー!」
「月島の奴、こええ……」

 後ろから聞こえる山口と日向の声を無視して、大股で歩き出す。ああ嫌だ。ペースを乱されるのは大嫌いなのに。
 なまえのことになると全然上手くいかない。

 まぁ、清水先輩みたいに美人なタイプじゃないけど。ぼーっとしているし、押しに弱いし、チビだし。間違って変な男に絡まれるかもしれないじゃないか。
 可愛いと、言えなくもないし。

「僕だけでいいのに……」

 なまえを可愛いと思うのは自分だけでいい。他の誰も分からなくていい。

「ツッキー!何か言った?」
「うるさいよ、山口」
「ごめん、ツッキー!」

 いつもの通学路は、真っ暗で代わり映えしない。山口は横に並んでからも、僕に何も言ってはこなかった。沈黙が苦じゃないのは有難い。
 馬鹿らしくて、面と向かっては言えないけれど。

「あ、俺サーブの練習行くから」
「ああ、そっか」
「あのさ、ツッキー!」

 必死さを感じる声に後ろを振り返る。山口は、最近少し変わった気がする。熱血馬鹿が感染したのかもしれない。
 口をきゅっと結び直してから笑って。少し緊張している様に見えたのは、何故かな。

「思ってること、いつもみたいに正直に言っちゃえば?」
「は、何のこと……」
「みょうじさん!ちょっと元気ないよ!」

 じゃあね、言うだけ言って山口は角を曲がって走り出してしまった。何その言い逃げ。僕は咄嗟に眼鏡を押さえて、それから混線した思考を手繰っていく。
 山口が彼女を呼んで気付いた。そういえば、僕はとっくに心の中で、なまえって呼んでいたんだなって。だからってどうということは無いんだけど。



***続***

20140107

[*prev] [next#]
[page select]
TOP