月島くんにメールを送ったけど、返事は返ってこなかった。今度試合があるんだね、頑張ってと送ったんだけど。
まぁ、月島くんはマメにメールをするイメージないよね。
そう思っていたら、帰宅途中にメールがきた。てっきり試合の話かと思っていたら、そうじゃなくって。今日はお店にいるの?行くと思うっていう用件のみのメール。
「いるよ。お待ちしています……っと」
指先が思っていたよりはねて、浮かれていたのを感じ取る。月島くんが部活終わりにお店に来てくれるのは珍しいから。
最近は来てくれる時も増えたけどね。
「いらっしゃいませー!」
「……なに?」
「え?」
「随分嬉しそうだね」
「うん!月島くんがきてくれるって、分かってたから」
「……っ!そう」
月島くんは眼鏡をかけなおして、ショーケースへと視線を落としていく。私は後ろを振り向いて、壁にかかった時計を確認した。
本当に、遅くまで頑張っているんだなぁ。
「お疲れ様!バレー部頑張ってるね」
「あのさ」
月島くんは顔をあげて、甘夏のチーズケーキとショートケーキ、フルーツタルトと三温糖のカットしたロールケーキを注文した。
私はトングでケーキをトレイに移しながらも、彼の次の言葉に意識を傾け始める。
「試合のこと誰に聞いたの?」
「え?」
「山口?」
咄嗟に答えようとしたのに、すぐに言葉が出てこなかった。正面を向いた月島くんの目が、射抜くようにこっちを見ていたから。
「……ううん!違うよ?」
「そう」
滝ノ上さんのことを話していいのか、少し躊躇ってしまった。だって、もし話したら。月島くんが此処に来るのを止めてしまったら?
何か、それは嫌だなぁって。
「試合!6月の最初の週末だよね?」
「勝ち続ければ月曜日もあるけどね」
「そうなんだ!すごい」
「……」
有線から流れる音楽だけが、私達の間を繋いでくれる。気まずい。月島くんは、まるで他人事みたいに話すから。どうして?
「私!試合、観に行こう……かな」
「見て楽しいもんじゃないよ」
「応援、しにいくんだよ」
「ふーん?」
来るなとも言われなかったけれど、来たらとも言われなかった。曖昧な感じは、入学式の日に突き放されたよりずっと心が疼く。
理由はとっくに分かっている。仲良くなれたと思っていたから、ちょっとショックを受けているんだ。私の馬鹿。
月島くんが「来ればいいんじゃない」なんて言ってくれるのを、心の何処かで期待していた。
「……ごめん」
もしかしたら厚かましかったかもしれない。そう思って謝ったら、月島くんが見下ろすようにこっちを見て、溜息を一つ。
「何が?何かやましい気持ちでもあった訳?」
「やま……?どういう意味?」
「……別に」
次に聞こえてきた声は、いつもより低くて冷たい感じがした。私はその洗礼に心が萎縮してしまって、それ以上聞き出せない。
どうして怒っているのかな?滝ノ上さんから聞いたってすぐ言った方が良かったかな?やましいってどういう意味だろう。
そんなことばかりが頭を支配して、口を固く閉じてしまった。
「じゃあ、もう行くから」
「あ、あの!」
「何?」
「……ありがとうございました」
結局、何も言えない内に月島くんが帰ってしまった。カランと鳴るドアに付いている鈴の音が虚しく響く。押し入って来る空気は少し冷たくて。
お客さんのいない店内は、少しだけ滲んで見える。
(うわー、馬鹿だなぁ)
喧嘩なんて嫌だって言えば良かった。これが喧嘩になるのかは分からないけど、月島くんが怒っている様に感じたから。
だったら逃げずに話を聞いて、納得するまで話せば良かったんだ。
私は、部屋に帰ったらメールをしようと決めた。返事は返ってこなくてもいい。
月島くんの応援に行きたいなって。ちゃんと自分の意見を言うんだ。
***続***
20131225