×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


知らせに飛びつく


 学校近くの坂ノ下商店がある町内と、なまえの店はそれほど離れていない。町内の人間も常連になってくれているので、なまえの家は個人商店で買い物することも多い。
 ある種、持ちつ持たれつの関係が成立していた。

「いらっしゃいませー!」
「なまえちゃん!こんばんは」
「滝ノ上さん、こんばんは。今日は嶋田さんと一緒じゃないんですね」

 やめてよーという顔が、優しく笑っていて安心する。滝ノ上はこの店によく顔を出してくれるその町内の電器店の息子だ。
 嶋田マートの嶋田と二人、烏野のOBということもあって、なまえをよく気遣ってくれる。

「なまえちゃんの笑顔で癒されたくて、暇な時間を狙ってきました!」
「あはは。確かにこの時間はいつもお客さんが少ないです」

 世間では夕ご飯時の、7時過ぎ。予約で大露わのクリスマスとバレンタインシーズンを除き、なまえの店が比較的客足の途絶える時間帯である。
 ここからしばらく緩やかに時間が流れて、閉店間際の9時になると駆け込みサラリーマンの客が増える。家族への土産か、別々の種類を5個くらい指差して買ってくれる。
 男性客はあまり、同じ商品を買う傾向がない。そういう意味でも、月島はかなり早い段階から目立つ「お客様」だった。
 もっとも、端正な顔立ちと長身が、否が応でも人目を惹くものではあったが。

「まー、俺のとこも相当暇だけどね」
「滝ノ上さん……」
「大丈夫、慣れてるから!あ、この新作ケーキ二つください」

 時間潰しと顔見せと言いつつ、滝ノ上も嶋田も必ず商品を買ってくれる上得意客だ。勿論、なまえの家のテレビも滝ノ上電器店で購入したものではあるが。

「そう言えば……俺こないだ母校に行ったよ。っても体育館だけだけどな」
「烏野にですか?」
「おう。放課後の時間だったし、なまえちゃんには会えないと思ってたけど」

 聞けば、滝ノ上も嶋田も学生時代はバレー部だったのだと言う。今のコーチが町内バレーチームの友人らしく、現役高校生と試合をしたらしい。

「……じゃあ、月島くんとか山口くんも知ってるんですか?」
「ん、一年生か。なまえちゃんの知り合い?」
「はい、だって……っ!同じクラスで!」

 言いかけた言葉を呑み込んで、危ういと口を抑えた。月島がここの常連だということは、内密にしておくことにする。
 滝ノ上も関係者と言ってもいいのではないだろうか。今後部活の人間に接触する機会もあるかもしれないし、言わない方が無難だろうと結論づけた。

「うーん。一回しか会った事ないから、名前と顔が一致してないかも。すんげー飛ぶチビと生意気な天才セッターはよく覚えているんだけどな!」

 滝ノ上の言葉に首を傾げる。月島と山口以外のバレー部の人間を、なまえは一人も知らない。

「その人達も一年生ですか?」
「そうそう!あ、月島ってデカイ眼鏡だ!山口は残りの一年だな」

 デカイ眼鏡と言われて、納得しかねながらとりあえず頷く。自分からしてみれば、滝ノ上も十二分に背が高いのだ。

「バレー部の一年生は4人なんですか?」
「うーん。少ねーよな」
「そんなことは……」
「はは!昔は強豪って言われてたんだぜ?まぁ……強かったのは俺等より後の代だけどさ」

 そう言われて、昔なまえがテレビでバレーを見ている横で父が話していたことを思い出す。烏野高校バレー部は全国に行ったことがある、と。

「すごいですね」
「おう!でも今年はまた強くなるんじゃねーかな!面白そうなチームだった!」

 気持ち良さそうに喋る滝ノ上に、なまえも嬉しくなって頭を振った。町内会でチームを作っていると聞いて、何度か練習しているところを見せてもらったことがある。
 滝ノ上も嶋田も、大人になってもバレーが大好きなのだろう。



「それにしても良かったなー!友達できるかなって不安だったもんな!」
「うう……からかわないでください!」

 あははと笑いながら頭を撫でてくれる滝ノ上は冗談のつもりでも、入学前のことを思い出して恥ずかしくなる。
 あの時は本当に不安で、うまくやっていけるのかとネガティブな心配ばかりしていた。

「いやぁ。あの、引っ込み思案ななまえちゃんからクラスの男の子の名前が出てくるとはな!お兄さんちょっと複雑!」

 流れてもいない涙を拭くフリをしながら、彼は嬉しそうに見つめてくる。照れくさい気持ちに駆られて、なまえもしまりの無い口を隠さずに笑った。

「今度一緒に体育館行くか?」
「いえ!練習の邪魔は出来ないです」
「そっかー。じゃあ大会ならどうだ?観に行けばいい!」

 大会と聞かされて思わず胸元に手を当てる。特別な響きを持つソレに、月島が出るなら応援したいと思ってしまった。

「いつ、ですか?」
「多分6月初めの週末だ。インターハイ予選の日程、出てると思うけど……」

 滝ノ上が予定を調べる間にも、なまえの思考は違うところへ運ばれていく。思いもかけず知ってしまった大会予定日。
 それにこれは、普段あまり自身のことを教えてくれない月島をよく知るチャンスかもしれない。
 なまえは心の躍動を抑えられず、「行きたいです」と元気よく返事をして、滝ノ上にまた笑われた。



***続***

20131210

[*prev] [next#]
[page select]
TOP