今日は朝練から、早速田中さんに一段と目付きが悪いと突っ込まれた。自分でも分かる位に目が血走っている感じがするから、仕方ない。
昨日、全然眠れなかった。
「今日の影山、機嫌すげー悪いじゃん」
「……んなコトない……っス」
「怖っ!ご機嫌直してよ、王様」
「……」
「やめろよ、月島!」
日向がぎゃああと言いながら月島に突っかかっていて、それを睨みながら何にも言わないでおいた。八つ当たりなんかみっともない。
バレーのことでもないし、そこまで出来るかと、ちっぽけなプライドが顔を出す。うわ、今。バレーと比べちまった。
「あのさ、影山。昼前に時間くれ」
「……ハイ?」
「教室行くわ。話はそん時なー」
俺には絶対真似出来ない菅原さんの笑顔に、つられて顔が緩む。話って何だ?やっぱり怒られる、かな?
昼前に菅原さんが来てくれて、非常階段の屋上手前で座り込む。黙ったままパンを頬張ること数分、菅原さんは頬を掻きながら、咳払いをして切り出した。
「実はさ、昨日見ちゃったんだよね」
「……は?」
「あー……なまえちゃん、泣かせてたべ?」
紙パックをきつく握りしめ過ぎて、ストローから中身が飛び出した。それでも俺と菅原さんは向き合ったまま。
「な……なん、西……」
「ああ!西谷には言ってないよ!流石にソレは……もう部活禁止なんてさせられないし」
笑った顔で菅原さんが放った言葉を俺なりに考えてみる。それってつまり、俺が西谷さんに何かされるってことか?
ん?菅原さんは内容までは聞こえてなかったのか?
「先輩」
「何だよ、都合良い時だけ先輩だな」
「……くっ!」
「あはは、嘘だよ。何?」
「あの、なまえさんが何で泣いてたか……」
「はぁ?影山、お前馬鹿?」
馬鹿と言われると否定出来ない。一瞬驚いた後、じとーっとした目を向けてくる菅原さんに小さくすみませんと謝れば、大きな溜息がおまけみたいについてきた。
「あのな、女の子に向かって美人じゃないとか完全にお前が悪いからな!」
「……う、それは!」
「なまえちゃんは可愛いだろー、って影山は言いたかったんだよな?」
「……っス」
何だ、この人!可愛いとか普通に言いやがった。いや、3年って皆こんなんだったな。2年差って、デカイ。
「影山は口数が足りなさ過ぎ。こういう事は日向みたいにズバっと大事なとこから言うもんだぞー」
「俺は……別に」
「いや、今更照れなくてもいいべ?」
さっきから菅原さんはどうしてこうも嬉しそうなんだ。うんうんと何回も頷くのも。何か、落ち着かねぇ。
「照れてる、とかでは……」
「ん?」
「でも、関係ないって言われました」
「うーん、うん?ちょっと待て」
菅原さんが困ったように目線を横に向けて、何かを考え込んでいる。その間に俺も考えた。多分、この人は前半の会話は聞いてない。
だから、なまえさんが西谷さんを好きだってことは話さない方がいいかもしれない。
そのことを考えると、何故か胸辺りがキシっと変に震えた。思わず手を当ててみたけど、特に何も変化はない。
「影山さ、もしかして無自覚?」
「……何がスか?」
「あ、あー……」
首を捻って菅原さんを見た。相手はすごく困った顔で口を開けたまま。俺はきっと酷い顔をしたんだと思う。菅原さんが困ったように笑った。
「それは自分で気付くべき、かな」
「……はぁ?」
「何でそんな話になったのか、ちゃんと考えてみたら?」
そんなとは、西谷さんの話だろうか。すると必然的に、誰に話すでもなく自分で考えるしかなくなった。
「……ハイ」
「あはは!そんな難しい顔するなって。なまえちゃんは正直に話せば分かってくれると思うぞ!」
頑張れよー、と言いながら菅原さんは去っていく。俺はその後も一人でぐるぐる歩き回って考えてみたけど、変な目で見られるから止めた。
***続***
20131108