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フットフォールト


 自販機の前でまた同じ人間に会うのは、校内ならば珍しいことではない。それを分かっていながらも、影山は動揺を隠すことが出来なかった。

「……ち、ち……っす」
「あ、影山くん。どうしたの?」

 クスクスと楽しそうに笑うなまえに、拍子抜けしそうになる。謝らなくても良かったのか、でも、誤魔化されるのは納得がいかない。

「あの、こないだのこと……」
「ああ!ごめんね、私、感じ悪かったね」
「イエ。ずっと気になってて」

 正直に言ってしまうことにした。あれこれ頭の中で考えたところで、きっと正解は出ない。何故こんなに固執してしまうのか、自分にも分からないから。

「なまえさん、泣きそうだったし」
「う……うん。影山くんは、ハッキリ言うね」

 否定しなかったなまえを見て、影山はおかしな感情を持て余した。自分でそう仕向けたと言っても過言ではないのに、落ち着かない。
 なまえが自販機から遠ざかり、中庭の花壇伝いに歩いていくのについて行った。少し歩いたところで、後ろを振り返ったなまえは、力なく笑う。

「別に。本当のことだよ。付き合ってないって、だけ」

 語尾が弱く揺れているのを感じながら、影山は押し黙った。悲しませるつもりなんかない。ただ、その先が知りたい。

「そうじゃなくって……」
「え?」
「傷ついた顔、してるから」
「っ!ごめん」
「いや、こっちこそすみません」

 腰を低くしながら、地面横の花壇を睨みつけた。苛々する原因が、掴めなくて歯痒い。

「気にしないで、ね?」
「気になります」

 影山の間髪入れずの即答に、なまえはどうしていいか分からないらしく固まっている。でもそれと同じくらい、影山自身も狼狽していた。

 いつも西谷の隣では幸せそうに笑う人が、苦しそうに付き合ってないのだと言う。ならば苦しい原因は、何だろう。
 簡単だ。嫌ってことだと思う。何が?

「西谷さんと付き合ってないことが?」
「……え!?」

 声に出してしまった。なまえは両手を前に持って来て、こちらの様子を伺っている。それはそうだ。吃驚しているのも分かる。
 でも、影山はやめられなかった。

(ああ、なまえさんは西谷さんが好きなのか)

 今度は辛うじて声に出すことはしなかった。けれど心の中で思った分、いつまでも頭に残って消えてくれない。
 それが無性に、気に食わなかった。

「う、わ!影山くん、どうしたの?」
「……あん?」
「(あんって?)えっと……怒ってない?」
「そう見えますか?」
「うん。すっごく眉間に皺。口も」

 心配そうに見上げてくる顔を覗き込む。その目の中に自分が映っていて、確かに険悪な顔をしていた。でも、笑ってやるものかと思う。
 笑ったところでどうせ、怖がられるだけだから。

「アンタ、わかんない人だな」
「……え?」
「西谷さんが好きなタイプってはっきりしてると思いますけど」

 険しい顔をしたなまえは、下唇を噛み締めて黙った。こんな顔をさせたい訳じゃなかったのに、苛々してしまって傷つく。傷つけているのは、自分の方なのに。

「……そんな事、分かっ」
「分かってねーよ!」

 大声になってしまった。その声に震えた肩が、縮こまって余計に小さく見える。なまえは、全然分かってないのだろう。
 背が小さくて、くるくる表情も変わって、大人なんかには程遠いけれど可愛くて。でも。

「アンタは美人じゃない」
「……っ!」
「でもちゃんと他に……」
「……るさい!」

 段々小さくなっていく言葉を続けられなかったのは、なまえが大声をあげたからじゃない。目の前に立っている小さな人が、泣きながらこっちを見ていたから。
 ボロボロと零れる涙は、次から次へと頬を伝っていく。それを見て、影山の方が気圧された。

「そんなこと、何で……影山くんに言われなきゃならないの?関係ない!」
「それは……」
「自分が美人じゃない、くら、い。知って……る!」

 走り出すなまえは、あの日と同じように簡単に見えなくなる。伸ばしかけた手を睨んで、恨み節のように呟く。

「……やっぱ、分かってない」

 他に色々魅力あるじゃないですか、そんな風に言いたかったのに、言いたいことを全然言えなかった。
 膝に手を置いて屈みながら、大きく息を吐く。今度は泣き顔が頭から離れなくなるのかと思うと、影山は眉間の皺を濃くさせるしかなかった。



***続***

20131030


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