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否定されても嬉しくない


 中庭にある自動販売機でいつもの飲むヨーグルトを買おうと思って行ってみると、見覚えのある後ろ姿が目的物の前で固まっていた。
 見覚えがあるといっても、会ったのは一度きりだけど。小さい背、あの日走り去っていく後ろ姿。見間違いようがない、なまえさんだ。

「なまえさん……?」
「あ、こんにちは」
「チワッス」

 腰を折るように頭を下げると、なまえさんも同じように深く背を折り畳んだ。元の位置に戻った顔は笑っていて、何かを誤魔化すみたいだった。

「ごめんね、お恥ずかしい所をお見せしました」
「……?何かありました?」
「あ、いや!自販機使う?お先にどうぞ!」

 先に行けと促されて、自販機前に押される。背中に触れた面が小さいのに逆らえなくて、俺は並んでいるヨーグルを同時押しした。
 赤いランプがついたのは左の方。俺は屈んで紙パックを取り出しながら、どうしたのか尋ねる。

「実はね、背が低いから牛乳を飲むべきか、今飲みたい紅茶を飲むべきか迷って」
「はぁ」

 ストローを咥えながら頭を捻った。そういえば、日向も牛乳飲んでいるな。なまえさんは大きくなりたいのか。
 近くで見ると確かに小さい。そこまで考えてから、全身を見回したのに気付いて、慌てて視線を足から外した。

 すると何を勘違いされたのか、なまえさんは人差し指を俺の方に向けて距離をつめてきた。

「あっ!今くだらないとか思ったでしょう?」
「ええ?え……ハイ」
「わ、影山くんって正直者だね」

 目が見開いた後、すぐに顔を崩して笑い出した。この人の笑顔はいいな。大きな口をあけても嫌じゃないし、大きな声も嫌味は全く感じない。
 見ていて気持ちいいし、いつまでも……って。あれ。

「俺の名前、何で」
「知ってるよ、影山飛雄くん。天才セッター、でしょ?」

 天才だとか言われるのはむず痒いけれど、この人に言われるのは何だか嬉しかった。ニンマリとした顔が、何故か自慢げであることさえも。

「夕……っと。西谷が話してくれたから」
「なまえさんは、西谷さ……先輩と仲良いんスね」

 そう言うと、分かり易く嬉しそうな顔をして頷くなまえさん。昔からの腐れ縁で幼馴染なのだと教えてもらった。
 西谷さんが言っていることと大差ない。それなのにどうしてか気に入らなくて、つい軽口を叩いてしまったんだ。



「付き合ってる、とかスか?」
「え!?」
「あ、いや。すんません……」
「あはは、あは……はぁ」

 言ってしまったことを後悔した。だって、また嬉しそうな顔をするんだと思っていたなまえさんは、目の前でみるみる表情を変えたから。
 それも、どんどん悪い方向に。

「そう見える?違うよ」
「あの」
「付き合ってなんか、ない」

 きゅっと結ばれた口は閉じてしまって、俺も何か言おうと思ったのにすぐには出てこなくて。なまえさんの頭が下がっていって、顔なんか見えなくて。
 それが嫌でどうにかしたいのに、何も思い浮かばない。

「その、俺……」
「ごめん。影山くんは、悪くない」

 掌を見せるみたいに両手を前に突き出したなまえさんが、いきなり顔を上げた。今にも泣きそうなのに、我慢しているように見える。

「なまえさん、」
「あはは!冗談だよね、ごめん」
「え?」
「夕と私が付き合ってるなんて、そんなこと絶対ないよ!」

 最後は無理に笑って。じゃーねと言いながら走り出していて。俺はちっとも動けずに、なまえさんが買いそびれた自販機のボタンを睨んだ。
 泣きそうなのに笑う顔が、頭から離れてくれない。

「……くっそ!」

 聞かなきゃ良かった、あんなこと。大体、何で聞いてしまったんだ。
 少しだけ、喋ってみたかっただけなのに。



***続***

20131025


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