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第三者的現状把握


 合宿から帰った後も日向と影山が口を利いていなくて。田中から聞いた話によると、ついに取っ組み合いの喧嘩にまで発展してしまったらしい。
 それでもここ数日、新しい武器を手に入れる為に二人は同じ目標に向かっている。お互いに言葉を交わさなくてもそれが出来るのは、やっぱりちょっと羨ましいと思った。

 日向は試合形式の時はBチームに入ることになって、俺が話す機会も増えたけど。それぞれ別の自主錬をする様になったから、影山とはなかなか。
 ピリピリしている様な時が増えたし、それが無性に気になった。中学の頃の渾名はもう相応しくないと思っていただけに。
 原因はバレーだけでは無い様な気がしたのは、俺の勘というよりは、思い当たる事がそれだけだったという話で。
 思えば影山がバレー関連以外のことで動揺を見せたのは、なまえちゃんに酷いことを言った時しか記憶になかったから。



 影山を昼休みに呼び出して、いつかの非常階段まで出向く。ここまで来たら何か気付いてくれるんじゃないかと思っていたけど。
 何故だろう、先に到着していた影山はソワソワした様子で嬉しそうに見えた。

「菅原さん!話ってアレですよね」
「え、もう察しついてる?」
「ハイ!同時多発時差攻撃のやつ、俺も動画見て……」

 鼻息を荒くして語り出されるそれは、こないだ森然がやっていた攻撃を取り入れようかという話で。口を尖らせながら顔を赤くして語ってくる。
 ここまで呼び出しておいて、自信がなくなってきた。影山って、やっぱり頭の中9割くらいバレーなのかもしれない。
 いや、もしかして9割9分くらい?

「あー、のさ!バレーもいいけど、今日は違う話な」
「はぁ……」
「最近ピリピリしてるのって、日向だけが原因じゃないよな?」

 少しだけつつく様な言い方は卑怯だったかもしれない。それでもバレーの事じゃないと告げた途端に興味の色を失っていた目は、すぐにこっちを向いた。
 それから段々と尖っていく口には、当たりですと書いてある。俺は自然と笑えてきてしまって、影山の背中を軽く何度か叩いた。

「ほら、なまえちゃんのことあれから何も聞いてないしさ。俺も話くらいなら、聞けるべ?」
「っ!あ、何……菅原さん、こえぇ!」
「は?何でだよっ!」
「タイミングがすげぇ、流石っスね」
「その流石って誉め言葉か?」

 今度は固く口を結んだかと思ったら、右足で地団駄を踏み鳴らす。一体何があったんだろう。試合には観に来ていたし、仲直りは済んだと思っていたんだけどなぁ。

「こないだ、何か悩んでるか聞かれたんですけど」
「そうなんだ」
「でも。日向のこととか、なまえさんには関係ないと思って」
「え、お前。ソレは……」
「関係ないって言ったんですけど」
「言っちゃったのかよ!」
「?はい」

 俺の大声に肩を揺らした影山が吃驚した顔を向けてくるけど、驚きたいのはこっちの方だ。美人じゃないと真っ向言っていた時もそうだったけど。
 それにしたって不器用過ぎるだろ、影山。

「でも、なまえさん、最後元気なかったなって。こんな事なら言った方が良かったかも」
「……影山」
「それに今すぐにでも問いつめたいことも出来て。でも言っていいのか分かんねぇし」

 眉間に皺が深く刻まれている顔は、悔しがっている時の顔で。後悔しているなら、ちょっとは分かっているって事でいいのかな。
 なまえちゃんが影山に対してどういう感情を持って接しているかまでは分からないけど。気遣った相手に拒絶されるのは悲しい。
 俺なら笑って誤魔化すけど、なまえちゃんならどうだろう。泣いちゃったりしているかもなぁなんて考えると、胸の辺りがきゅっと苦しくなった。
 頭の中で考えを巡らせている間にも、影山の話は続いていく。

「で、ぐちゃぐちゃ考えてると、バレーしたくなってきて……」
「へっ?何でそこでバレー?」
「精神統一の仕方とか、やり方が身についてるからっスかね?」

 当たり前だろうと言わんばかりの影山に、俺の方が間違っているのかと錯覚させられそうになる。今の今まで一人の女の子の話だったのに。
 これって多分、9割がバレーなんじゃなくて。じわじわとなまえちゃんの占める割合が増してきて、戸惑っている最中ってことかな。
 だったら、俺も言い回しを考えなきゃいけない。

「ホント、バレーに関して影山はストイックだなー!」
「そうすか?別に普通ですけど」

 そう思うことがすでに凄いけどな。意識の問題かな、やっぱ。

「でも、影山でも普通に悩んだりするんだな、なまえちゃんのことも!」

 驚かされっぱなしだったし、反撃として揺さぶってみた。影山は一瞬怯んで、それでもすぐに射抜く様な目付きに戻る。
 あれ、俺。地雷を踏んでしまっただろうか。バレーの話からした方がいいかと思ったんだけど。ちょっと唐突過ぎたかな。

「はぁ。なまえさんのことは好きですけど。そればっかりは効率悪いとか考えても仕方ないんで」

 あっさりと肯定した影山に、俺の方が焦ってしまった。こんな筈じゃなかったのに。でも、影山もやっぱり男なんだよなぁ。
 機械みたいに精密なトスするけど、勿論感情だってある訳で。そう思うと、日向のことももう少し言い方とかあったかもって考えてくれたらいいな。

「……何スか?」
「安心したなって思って!」
「はぁ?」
「いやー、俺は影山って鈍そうだなって思ってたから。なまえちゃんの事好きって言うなんて意外で」

 頭の後ろに手を回しながらそう答えたら、きょとんとした後、みるみる顔を赤くして口を尖らせていく影山。なになに、コレ。
 可愛いところあるじゃないか。

「っぷ!ははは!影山、顔!」
「すんません、今!つい口に出てて……うわああああ、記憶!消してください!」

 予想を軽々と超えていく唐突な告白に、俺は何故か当人でもないのに嬉しくなってきて。声を出して笑ったけれど、これからも二人を見守っていきたいって思った。
 チームの皆には内緒にしちゃって悪いけど、この話は絶対茶化しちゃいけないなぁ。



***続***

20140710


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