×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


幼馴染の杞憂


「西谷、すごい目付きで影山のこと見過ぎなんだけど……」

 遠慮がちにそう言って切り出してきたのは力で、東京遠征1日目の食堂でだった。もう晩飯も終わって人はまばらになってきて、風呂に行こうかと思っていたのに。
 力が気を遣って声をかけてきたのが伝わってきたので、浮きかけていた腰をどっかりと据える。俺の行動にびくりと肩を震わせた相手は、見つめ返すと眠そうな目で見てきた。

「何か、あった?」
「おう。悪ぃな!別に普通だ、俺は!」

 こないだなまえが執拗に繰り返していた普通という言葉を付け足してみる。すると違和感しかなくて、やっぱり普通じゃねぇなと心の中で幼馴染にツッコミを入れた。
 せっかくの東京遠征だしバレーの事だけ考えてね、と声をかけられたことまで思い出す。俺の生活に無意識に入り込むなまえは、いるのが当たり前で。
 その当たり前が崩れつつあるのを、情けないことに漠然と不満に感じていた。

「影山のこと怖がらせてどうするんだよ」
「別に冴子姐さんに送ってもらって羨ましいとか思ってねーぞ!」
「それもか。お前は忙しい奴だなぁ」
「う、う……別に、俺は!」
「なまえちゃんのこと、影山なら認めてやらなくもないって感じじゃなかった?」

 あっさりとそんな事を言ってくる力に、俺の方が黙り込んでしまった。こんな事珍しい。いつもは俺が一方的に喋り続けるなんてことの方が多いし。
 俺を見てふふっと息を漏らしながら笑った力の目は、一層優しげに細められた。

「くっそ!力はずりぃ!」
「何でだよ?」
「何でもお見通しって態度格好イイ!」
「別に格好良くないし、逆に恥ずかしいからやめろよ。ソレ」

 前からちょいちょい感じていたけど、力には俺がこっそり陰でしてきた事を知られていたみたいだ。だからって開き直るのもどうかと思うけど、否定する気にもならない。
 思い起こすには、少々気分が悪くなる思い出ばかりだ。



「なまえちゃんと付き合ってないってガチ?結構可愛いよなー!」

 あんまり親しくない同級生の男が、俺に近づいてくる目的の7割はなまえだと気づいたのは、中3の始めくらいからだ。
 残りはイベントの助っ人とか、それは大歓迎だったけど。いやそれより、結構って何だよ。失礼な奴だな。
 なまえには色気もないし綺麗でもないけど、反応は面白いし、素直だし、可愛いだろうが。

「誰だ、お前?」
「ん、俺?なまえちゃんの彼氏候補的な?それとももう彼氏いるとか、何か知ってる?」

 あからさまに威嚇を篭めて睨んでやったのに、全く懲りてない男を見上げる。背が高いな、クソ!彼氏候補、じゃねぇよ。
 なまえは昔から性格もはっきりしていて世話焼きだから、男女関係なく友達は多かった。でも、こういうのは最近本当に多くて。
 嫌になる。本気で好きじゃないなら周りをうろつくな。そんな風に言う権利もないのに、言ってしまいそうな自分にまで。

「なまえの好みのタイプなら分かるぞ」
「マジ!?流石西谷!どんな?」
「ヒーローだな!」
「……は?」
「格好いいだろ!ピンチの時に現れるってやつ!あとメシを旨そうに食う奴!」

 相手の表情が困惑に変わっていくのを見て、後半慌てて付け足した。これはいつか、本当に言っていたことだからな。
 嘘は言っていない、うん。

 そんな事を繰り返していく内に、俺に仲介を頼もうとする奴は減った。その代わりに直接なまえに特攻する奴が増えたから、学校でのスキンシップを家と変わらない位に増やしてみた。
 それが良い事だったのか悪い事だったのか、未だによく分からない。なまえの方から俺を避け始めて、しばらく俺は苛々としていた。
 居心地良い状態が元に戻ってきたなと感じたのは、部活禁止を食らってからだ。あれは間違ったことだと思ってないけど、こんな効果は期待していなかった。
 それなのに、今度はこれだ。なまえは影山が好きで、影山もなまえのこと好きとか。あれ?好きだよな?つーかこれで何とも思っていませんとか許せん。



「くそ、影山め!」
「どうどう。回想終わった?」
「はっ!力、すまねぇ!」
「別にいいけど。西谷も苦労性だなぁ」

 俺は確かに、なまえに寄って来る男を自分なりに篩にかけてきたつもりだったけど。結果的に誰も残らなかっただけだ。
 ただ、今回様子が違うのは、なまえも影山が好きだという事実。この事実だけは否定しようがないから、どうしていいか分からない。
 いや、多分。俺は単純に気に食わないだけだ。いつまでも後ろをついてきて当然と思っていたなまえが、ふと後ろを確認したら違う男に余所見していた、そんな気分で。

「俺は自分がなまえの一番だと思ってたんだよな」
「えっ!あんだけ潔子さん潔子さん言ってるクセに?お前、本当にちょっと反省しろ」

 間髪入れずに切り返されて、それもそうかと納得させられるしかない。美人は皆好きだろうと言ってみた所で、力には死んだ様な目で見られるのがオチだ。
 いつかアイツにだって彼氏が出来るだろうと思っていたものの、具体的に想像が及ばなかった。なまえが誰かを好きになって、俺から離れていくことなんて。

「っていうか、影山の話だろ。なまえちゃんがどうとか、気が早過ぎるよ」
「えっ、あ、おう!」
「ん?二人ってまさかもう付き合……」
「んな訳あるかあああああ!」
「うわっ、わ、分かった!耳痛い!」

 はぁはぁと肩で息をした俺に、力は呆れたと思ったら笑い出した。くっそ、何が可笑しいんだよ。力は机の上で手を組みなおして、顎の下に持っていく。
 そうして呼吸を整えてから、目線だけをこっちに向けた。あ、また。優しそうな顔しやがって。

「考えても仕方ないんだから、普通にしてなよ?」
「普通って何だ!」
「とりあえず、威嚇しない。睨まない」
「お、おう……」
「気に入らないのは分かるけど、不満を顔に出さない……ったく。プレー中は出来てるのに。メリハリが逆に怖いくらいだよ」

 ぷっと息を吐き出されて、恥ずかしくなってくる。畜生、格好悪いな、俺。影山もなまえも悪い事なんて何一つしていない。
 それが分かっているだけに、この苛々は分が悪い。

 俺にもし彼女が出来たとしても、なまえを蔑ろに出来たんだろうか。きっと無理だ。だからなまえも……そう思いたがっている事に気付いて、机に思いっきり頭をぶつけた。
 何だ、幼馴染って。結局すげぇ寂しい役回りじゃねぇか。



***続***

20140610


[*prev] [next#]
[page select]
TOP