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揺れる、揺られる


 図書館からの帰り道、影山くんのテスト対策を聞きながら少々の不安を覚える。どうしても文章問題が苦手な為、暗記を重点的にやっているらしい。

「じゃあ。漢字とか四文字熟語とか?」
「っす。文章から読み取るとかは、に、苦手なんで」

 ごにょごにょと誤魔化しながら口を尖らせる影山くんに、思わず口が緩んでしまった。ここまで夕と似ていると、その絶望さも明白だ。

「それであんなにガリガリ……」
「過去最高に頭いいです、今」
「その発言が凄く馬鹿っぽい」
「う、まぁ、赤点だけは取りません!」
「国語の先生も採点する時吃驚するかもね?」

 文章読解力とかはすぐに身につくものでもないしなぁ。今回の場合は、仕方ないのかな。でも、セッターって頭使いそうなのに。
 二人並んで歩きながらバス停に辿り着く。他愛ない会話をしながら、思い出してしまうのは夕のこと。こんな会話すら、最近は交わしていない。
 あ、駄目だ。じんわりとこみ上げてくる感情は、寂しさから来るものかな。

「まだ元気ないスね」
「わ!そうかな?」

 顔を覗きこまれて近づく距離に、吃驚し過ぎて大袈裟に仰け反ってしまった。すごく感じ悪いと思う。影山くん、怒ったかも。

「…………なまえさん」
「ふぁい!」
「そんな警戒しないでください」

 じーっと見続けられて、根負けするように頭をぶんぶんと上下に振った。別に警戒とかした訳じゃない。何か、変なの。
 影山くんが近いと落ち着かない。

「西谷さんと仲直りしてくださいね」
「えっ?」
「気まずくて体育館に顔出さなくなるとかナシなんで」

 仲直りした方がいいのは当然なんだけど。影山くんに仲直りしろと言われるのは複雑な気分。自然と築いていた手の防壁を解いて、顔に緩い風を送る。
 さっきから変な汗を掻いてきた。遠くから聞こえる蝉の声が、感じる暑さに拍車をかける。

「そういえば、何で喧嘩したんスか?」
「え!え、あー……ね!」
「はぁ」

 夕と喧嘩した原因が、影山くんが好きかどうか聞かれたからなんて、言える訳がない。そっか。影山くんはこれを知らないから。
 複雑な気持ちになるの、これだ。

「夕が勘違いして……」
「誤解解きゃいいじゃないですか」
「それに怒って私が酷いこと言っちゃって……売り言葉に買い言葉、みたいな……」

 うわぁ。目の前の影山くんが、ものすごく嫌そうな顔している。でも言葉にすると、やっぱり私が悪い、よね?

「私が悪いって、思ってるでしょ?」
「あー……素直じゃないなとは」
「影山くんは素直過ぎるよ!」
「そうスか?別に普通ですけど」

 ふわりと一陣の風が突き抜ける。影山くんの前髪を揺らしたそれは、平等に私の頬も撫でた。遠くを見る影山くんの顔は、どこを見ているか分からなくて。
 しばらく見つめてしまった。変なの、いつも真っ直ぐに見られる時は、目を合わせていられないのに。

(やっぱり影山くんは、格好良いなぁ)
「何ですか?」
「う、うん!?」
「珍しいですね、なまえさんが俺をじーっと見てるの」

 くつくつと無邪気に笑いながらそんなことを言われて、どう反応していいか分からなくなる。影山くんに悪気なんかない。
 それが分かっているから、今更否定なんか出来なくて。恥ずかしい。相手に気付かれるくらいまじまじと見ていたなんて。

「ご、ごめんね!」
「いや、嬉しいですけど」
「……うっ!な、は……?」
「あ、バス来ますよ」

 長い指の先に、私達の乗るバスが見えた。何だかはぐらかされた気がするものの、「それってどういうこと?」なんて聞き返す度胸はなくて。
 先にバスへと乗り込む背中を見上げながら、睨む様な格好になった。

「なまえさん、早く」
「う、ん。はい」
「何スか、それ」

 だって。行きは人がいっぱいで立っていたから良かったけど、帰りはバスが空いていて。二人掛けの席に影山くんが座ってしまったから、隣が空いている。
 当然私が座るべきなんだろうけど、ちょっと。バスの席ってこんなに近かったっけ。それに影山くんは大きいから、私が座ったら肩がぶつかりそう。

「お、邪魔します」
「はぁ……?」

 変に意識をしているのは私だけみたいで、それが余計に恥ずかしい。左端いっぱいに寄ってみるけど、揺れたら絶対肩がぶつかる。

「っく、は、なまえさん」
「え、何?」
「落ちそうです、ソレ。もっとこっち」
「わっ!」

 掴まれた腕をぐっと引かれただけなのに、腰が浮いて右側へ寄せられた。膝小僧が影山くんの固い太腿にぶつかって止まる。
 だけど、緊張し過ぎたのは最初だけで。影山くんがいつも通りだから、私も体の力が抜けてきた。何か、これ。

「影山くん。私、夕に謝ってみる」
「ハイ。その方がいいですよ」

 少しだけ口角を上げた影山くんに、じんわりと背中を押された気分。自分の意識を変えれば、違う結果があったのかもしれない。そんな風に思えたから。
 すぐに窓の外を向いてしまった影山くんは、それきり喋らなくなったけど。襟足の髪の毛に向かって、心の中でありがとうと呟いた。



***続***

20140522


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