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指摘されて気付くこと


 テストが一週間前に迫って、部活動は全面禁止になった。夕も田中くんも他のバレー部の子に勉強を見てもらっているみたいで、すっかりガリ勉モード。
 先生たちも吃驚の変貌ぶりに、ちょっとした噂になっているくらい。私も「西谷くんどうしちゃったの?」って誰かから聞かれる度に、合宿のことを話した。
 でも、喧嘩は延長戦がもつれにもつれたままで。本当に何年ぶりか忘れてしまう位久々に、私は夕のテスト勉強のお世話を一切しなかった。

「なまえ、西谷くんと喧嘩したの?」
「別に……あっちが悪いし」
「うわ、珍しいねー!」
「楽しまないでよ」
「あははっ!」

 こんな風に友達にからかわれるのにも慣れた頃、影山くんからお呼び出しがかかった。日向くんと共に、新しくマネージャーになった谷地ちゃんに教わったりしていると聞いていたのに。
 私なんかで良かったのかな?



「こんにちは」
「すんません、いきなり」
「ううん。私も谷地ちゃん見たかったなぁ!」

 図書館前のベンチで待ち合わせをして、時計を見ながら呟く。時間ぴったりに走ってきた影山くんは、夏だと言うのに黒いTシャツを着ていた。

「俺と二人は嫌ですか?」
「え?あ、違うよ?ちょっと見たかったなって!」
「練習見に来ればいいじゃないですか」

 そう言ってさっさと館内へ入って行く影山くんを慌てて追いかける。昨日は谷地ちゃんのお家で勉強したと聞いたから、何処までやったとかも聞いておきたかったのに。
 ちょっと小走りになって、Tシャツの裾を掴む。そんなに力を加えたつもりは無かったのに、影山くんは盛大に傾いて止まった。

「なまえさん?」
「独り占めするんでしょ?」
「え……」
「うわぁ、今のナシ!早く行こう」

 いつだったかムキになって言われた言葉を、何で今になって思い出すんだろう。しかも、結構恥ずかしいし。影山くんはこんな事、さらっと言えて凄いなぁ。
 体を動かしていないと落ち着かない空気に呑まれて歩き出すと、今度は後ろの方から笑い声が聞こえた。

「ぶはっ!」
「な、なに?」
「だってなまえさん、照れてるから」
「……もう!本当に置いてくよ?」
「すぐ追いつきます」

 なんて生意気にも言ってくれちゃう影山くんは、足の長さからして違う訳で。入口の自動ドアの前に立つ頃には、とっくに追いつかれていた。

 適当な席につくと、何処まで進んでいるかをチェックする。勉強を教えてもらっている同級生から常々言われているのか、ちゃんと小テストまで持参していた。
 ノートのまとめと、小テスト、それから暗記対策に作られた細々したものを見て、大体の状況は把握出来る。影山くんの読解力が乏しいことも。思わず顔が緩んだ。
 相手はというと、一心不乱に漢字を書き殴っている。

「影山くん、国語苦手なんだ」
「なんっすか。そんな笑って……」
「ごめん、ごめん!夕も、苦手で……」

 あ、駄目だ。こんな時まで夕のこと考えちゃった。喧嘩なんて久しぶり過ぎて、どうやって仲直りしてきたのか覚えてないよ。
 もしかして、ずっとこのままなのかな。

 私はどんな顔を晒したんだろう。影山くんの動いていた手が止まった。これじゃあ邪魔していると思って、何か言おうとする前に。
 影山くんの声は抵抗もなく私の奥へと入り込んだ。

「何か、ありました?」
「あ……は、実は。夕と喧嘩しちゃって」
「けん、か?」
「恥ずかしいよねぇ!この歳で。大嫌いとか言っちゃうし出て行けとか言われるし……」

 はーっと溜息が出る。第三者に聞かせることじゃない、恥ずかしすぎる。何か最近私、影山くんに気安くし過ぎかなぁ。
 先輩なのに。自信なくなってきたよ。今日だって、勉強教えるつもりで来たのに。

「今日は泣かないんですね」
「っ!影山くん、うんざりしてる?」
「……何が?」
「私が、その夕を……」
「ああ。今は好きじゃないですよね?」

 再び手を動かしながら言われた言葉に、はっとして瞬きしか出来ない。言われてみて納得した。すとんと体に落ちてきて、ぴったりと当てはまるその気持ち。
 好き、だった。夕から影山くんのこと好きなのかって聞かれて、夕に言われるなんてって悔しい気持ちはあった。
 でも、それは傷ついた訳じゃなく、ムカついたから。私の何年分もの気持ちには気付かない、馬鹿な夕に。

「好きだった、ですよね?」

 何時の間にかこっちを見ていた影山くんに捕まった。まっすぐに見返してくる目に、焦れているみたいに感じるのは、どうして?
 私の右手の指先に、影山くんの大きな手が触れた。こんな風に優しく触られるのは初めてで、病気かと思ってしまうくらい心音が早くなる。

「あ……そう、だね」
「……っしゃ!」

 小さくガッツポーズをしてシャーペンを握りしめた後、何事もなかったかのように勉強を再開する影山くん。その真剣な顔を睨みながら、心の中で叫ぶ。
 何、それ?なんで、そんな。子供みたいに嬉しそうな顔、するの?

 一応自分の勉強道具も持ってきたし、何か質問されたら答えようかと思って気合満々だったのに。私はそれきり固まってしまって。
 全然集中出来なくて、頭の中で影山くんが喜んだ姿ばっかり再生していた。



***続***

20140511


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