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 お昼休み、バレー部の二年が夕のクラスに深刻な顔でお弁当を持って集まっているから、一体何事かと思ったけれど。
 私が想定していた問題とは全く違っていて、拍子抜けしてしまった。

「なんだぁ!テストの話か」
「なんだってお前!深刻なんだよ、こっちはー!」

 キャンキャン吠えてくる夕に掌を晒して、怒らないでと静めておく。テストなんてまだまだ先のことだしね。
 そういえば、こんな時期から夕がテストの話をするなんて驚きだ。すごく珍しい。

「テストってまだ来月の話だよ?」
「なまえちゃん、実は……」

 苦々しい顔をした縁下くんの隣で、頭を抱え込んでしまった田中くんが視界に入る。夕なんて半泣き。そんな酷いことを言っちゃったのかな?

「はー……成程ね、そうだよね」
「納得!?納得するんですか!」
「何で敬語なの?田中くん」
「田中と西谷はやべーからさぁ」
「そっか。成田くんは余裕だよね、縁下くんも」

 あははと笑いながら謙遜する成田くんだけど、進学クラスの子が赤点取るとは思えない。縁下くんはうんうんと頷いていて、私の予想は当たりらしかった。

「俺も頑張らなきゃだけど、こいつらよりは……なぁ」

 ちらっと申し訳無さそうに田中くんと夕を見た木下くん。その視線を感じたのか、二人が同じタイミングで肩を震わせた。
 バレー部の遠征合宿があるけど、補習と被ると行けないらしい。赤点取るなという宣告を先生や先輩方から言い渡された二人は、完全に怯えきっていた。

「まぁ、赤点取らなきゃいいじゃん」
「なまえ!教えて!」
「え、皆で勉強するんでしょ?」

 集まっているからには対策を講じているんだと思った。間髪入れずにそう返すと、夕は勢いよく縁下くんに向き直る。

「縁下先生!」
「別にいいけどちゃんとやれよ、西谷」
「縁下先生!」
「田中くんも?大変だね、縁下先生!」
「なまえちゃんまで……やめて」
「あはは!」

 縁下くんが崇められていて、不謹慎かもしれないけど可笑しい。夕も今回ばかりは必死で勉強するだろうし、大丈夫かな、良かった。
 あれ、私、安心しているみたいだ。頼りにされなかったら、寂しく感じるものだと思っていたのに。変なの。

「龍の家がいい!」
「おー、そうすっか!」
「気合入ってるね」
「ったり前だぁ!影山にも翔陽にも負けねー!」
「……えっ?」
「え?」

 私が大きい声で聞き返したからか、田中くんが驚いて聞き返してきた。場の空気を戻すように、気にしないでと手を動かす。
 確かに、薄々感じてはいたけど。影山くんも、夕と同じでバレーでだけ頭使えるタイプだったんだ。



 お昼ご飯を食べたら会えないかな?そんな味気ないメールを送ったら、影山くんからすぐに着信がきた。会いたいですと言ってくれたから、お礼を言って中庭を指定する。

「ちわっす」
「ごめんね、呼び出して」
「……イイエ」
「何でそんな怖い顔してるの?」
「んなこと、ない……っす」

 何かものすごく神妙な顔しているな、影山くん。もしかして、夕や田中くんみたいに思い悩んでいるのかもしれない。
 ここは先輩らしく、マイルドに切り込んでみる方がいいかな。

「遠征のこと聞いたんだけど」
「ああ、東京の」
「うん。影山くんって勉強好き?」
「……」
「おーい、影山くん?」

 うわ、驚いた顔したまま固まってしまった。きっと影山くんも感覚派なんだよね、夕と同じ匂いがするよ。

「……勉強」
「うん?」
「勉強しないと……!」
「うん、その調子。頑張ってね!」
「あの、なまえさん。勉強教えてらってもいいですか?」

 じーっと鋭い目で射抜かれて、至近距離で向かい合って座っていたことを今更意識してしまった。うわぁ、そんなに近づいてこないで欲しい。
 心臓に悪いよ!

「私で良ければ……でも同学年の子に同じ範囲教えてもらった方が、分かり易いかもよ?」
「……ちっ」

 徐に舌打ちしてくれた。聞こえているよ、影山くん。それでも視線を逸らして何か考え込んでいる彼に、文句は言わないでおく。
 黙っていればキリっとしていて、本当に格好良いのになぁ。

「私も出来る限り協力するから。夕も縁下先生にご教授願うみたいだし、私は今回お役御免みたいだしね!」

 努めて明るく言ったつもりだったのに、影山くんはまた眉間に深い皺を刻む。嫌味なつもりはなかったんだけど、良くなかったかな。
 最近、影山くんの反応ばっかり見てしまう。はっきり指摘されるって分かっているからかも。

「影山く……」
「そうっすか!じゃあなまえさんは俺が独り占めします!」

 すっと立ち上がって、それきり顔も合わせてくれない。いきなりの宣誓に吃驚して、私は正面を睨んでしまった。
 だって、睨んでないと。顔がムズムズして、崩れていきそうなんだもの!

「なまえさん!」
「は、はい!」
「忘れないでくださいよ?約束!」

 そう言って走り出してしまった彼を、私が止めることなんて出来るはずもなく。呼び出した時点で協力する気があったんだと思い至ったら、急激に恥ずかしくなってしまった。



***続***

20140405


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