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眼差しに報いる


「チッス、戻りました」
「早っ!」
「プ。どんだけバレー好きなの、王様」
「あ!何でなまえ?」
「こんにちはー……お邪魔します」

 夕が驚いているところを見ると、私を呼び出したのは別人だったらしい。いいからついてきてください、なんて言う影山くんに文句はなかったけど。
 体育館に入っていいか悩んでいると、スガさんが奥の方から大振りに手を振ってかけよってきた。相変わらず、気さくで優しいなと思う。

「ああ、なまえちゃん!ごめんね」
「いえ、こんにちは」
「スガさん!何で……」
「清水!なまえちゃんに用あるんだよな?」

 スガさんが声をかけたのは潔子さんで、それなのに本人ときたら驚いている。どうしていいか分からず、咄嗟に夕を見たけど。
 本人はまだ私がいることが不思議でならないと言った感じで、スガさんに詰め寄っている。私が体育館に顔を出す時って、大体夕に用事がある時だしね。
 だけど駄目だ、こんな時夕を見るようじゃ。無意識に甘える癖がついているんだな。

「あ、ごめん。なまえちゃん、いい?」
「……はい」
「あの、菅原さん?」
「はいはい!影山は練習な!」

 また眉間に皺を増やした影山くんが、口を尖らせながらスガさんに引き摺られていく。私は潔子さんに促されるまま体育館から外に出ようとした。
 何でだろう。今少しだけ、影山くんに申し訳ないって思うのは。



 体育館が見えなくなる位歩いたところで切り出されたのは、バレー部のマネージャーを増やしたいと思っているという旨だった。
 潔子さんは遠い一点を見つめながら喋る。ここに来て呼び出された意味を理解したけど、私の答えは決まっていた。

「それで、なまえちゃんさえ良ければ、やって欲しいんだけど」
「えっと……すみません」
「そっか。前から言ってたもんね」

 儚げに笑った潔子さんを見て、申し訳なさでいっぱいになる。表情一つで人を不安にも幸福にもしてくれそうってすごい。
 美人ってすごいなぁ。

「中途半端は出来ないって、なまえちゃんらしい。分かっていたのにごめんね?」
「いえ!私、それだけじゃないです」
「ん?」

 あまりにも潔子さんが私を信頼してくれるから、段々と脈が早くなる。だって本当は、私。潔子さんのこと、妬んだ事がないって言ったら嘘になるもの。

「私、夕から離れたいんです」
「えっ?」
「大学は、きっと別々だし……」

 驚いた顔をした潔子さんに、とってつけたような理由をあげつらった。最近は結構平気になってきたと思う。
 無理やり気持ちを否定することはないって影山くんが教えてくれたから。自然なままの私は、夕の言動に傷つくことが少なくなった。
 でも、やっぱり個々に独立するためには、近づき過ぎない方がいい。それだって私の本心だ。

「そっか。心配なのね」
「私が!甘えちゃう部分も多くて。これ以上近づくと……夕が、彼女出来た時とか。変なトラブルになったり、とか。するかなって」

 ふふっと柔らかく笑う潔子さんに、どこまで見透かされているんだろう。すごく怖いけど、これ以上言い訳を連ねるのは止めた。
 私に声をかけてくれたのは、潔子さんの気遣いだと思うから。

「そう。ごめんね。やっぱり一年生を勧誘してみる」
「いえ!あの、頑張って、ください」
「ありがとう。あ、なまえちゃん」

 名前を呼ばれて、まっすぐに見返す。潔子さんって本当に綺麗だ。その瞳に映り込む私も、せめて醜くないように。

「はい?」
「マネージャーが二人になっても、変わらず部に顔、出してね」

 笑ったつもりの顔は、瞳の中で驚いていた。こんな風に言ってもらえるなんて、全然。思いもしてなかったから、反則だよ。

「いいんですか?」
「勿論。貴方が来ると、影山くんは気合が違うみたいだし」

 にしっと歯を覗かせて笑う顔は、愉快そうに見える。あ、歯まで真っ白で綺麗……じゃなくて。あれ、どうして影山くんの話に?

「な、な、何の!?」
「ううん、何でもないの。戻ろう?」

 颯爽と歩く後姿も、綺麗だから敵わない。元より敵うなんて思ってないけど。潔子さんのこと、好きだって気持ちもあるの。
 あと一年で、この後ろ姿にどれだけ追いつけるかな。



 体育館に戻ったら、もう練習は再開していた。激しい掛け声と体育館にボールが叩き付けられる音、シューズが擦れる音。

(あ、綺麗なトス)

 迷いのない軌道は、回転音まで聞こえてきそうなほど。それを涼しい顔で正確に繰り出している影山くんの足に、買ったばかりのシューズ。
 着地の衝撃にも違和感はなさそうで一安心。ほっと息を撫で下ろすと、一瞬、影山くんと目が合った様な気がした。

「……っ!」
「ね?なまえちゃん、効果あるしまた来てね?」
「き、潔子さん!」

 何時の間にかボールを抱えた潔子さんが間近にいて、またにんまりした顔で笑われた。情けないことに、名前を呼んだきり反論は出来ない。
 どうして気付かれたんだろう。いつもは夕を追いかける視線の先が、今日は影山くんに変わっていたこと。
 影山くんからも潔子さんからも色んな事を言われて、混乱しているからだと思うことにした。というか、絶対そうだ!多分、おそらく。



***続***

20140321


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