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突発デート


「うわ!影山お前、靴駄目だろ!」
「うわっ!マジだ」
「おー、よくそんなので飛んでたなぁ」

 午前中最後の練習で、違和感があったから脱いでみたら案の定。繋ぎ目が裂けてぱっくりとバレーシューズが割れていた。
 穴が開いた、くらいの可愛いもんでもない。これはもう誰が見ても駄目だ。

「影山ぁ!お前、予備は?」
「あー……買おう買おうと……」
「馬鹿野郎!午後イチで買いに行け!そんな状態でコートに入らせないからな!」

 烏養さんの怒号が響き、視界の端で何故か日向まで縮み上がる。くっそー、練習試合だってもうすぐあるのに、それまでに慣らしておかねーと。

「……ちっ」
「はいはい、苛々しなーい!影山、せっかくだしゆっくりすればいいじゃん」

 ニコニコ笑う菅原さんが、ポンと俺の肩を叩く。ゆっくり?全然出来ない!この人と信頼関係でかなり差を開けられている気がするのに、余裕なんか無い!

「いえ!買ったらすぐ戻……」
「なまえちゃん、今日バイトないって」
「は……?」
「だーかーら、一緒に買いに行ってもらえばいいべ?西谷が部活の今がチャンス!」

 にししっと悪い笑みを零して、菅原さんが耳打ちしてくる。チラっと西谷さんの方に目を向けると、首を傾げて睨まれた。
 ヤバイ、口がにやける、止まれ。

「何でそんなこと……俺はっ!」
「その代わり、帰りになまえちゃんここまで連れてきてくれ」

 やれやれといった感じで苦笑いする菅原さんに、実はそっちが本題だと言うことを気付かされた。あれ、何でだ?

「何か、あるんすか?」
「ん、ん!ちょーっと、な?」

 シーっと人差し指を口の前に持ってくる菅原さんに、納得はしかねるけれど。一度出された提案は、掻き消せないくらい俺の中で大きくなってしまった。



「……そんな訳なんで、一緒に靴選んで貰えませんか?」
「私で良ければ構わないけど」
「あざす!」
「う、うん?」

 会いたいんですと電話で言えば、ご飯食べてからおいでと諭されるように言われて従う。何で、俺が直行しようとしていたかまで伝わったかは謎だ。
 ふわふわしたワンピースにカーディガンを羽織ったなまえさんは、珍しく髪を縛っていなかった。

「かわ、可愛……」
「で?何処まで行く?バス?」
「あ……ハイ」
「ねー、バレーシューズ扱ってるトコって言ったら駅前のあそこかな」

 ずんずん歩き出すなまえさんを追いかけながら、バス停まで辿り着く。もう一度言い直した方がいいか考えて言おうとした時、なまえさんの耳が赤いことに気付いた。

(あー……ヤべ)

 この人、ずるい。でもちゃんと聞こえていた、伝わっていた。勝手に緩みそうになる口元を引き上げて、バスが来るまでは黙って横に並んでいることにする。



 俺もなまえさんも知っている店が同じだったので、選ぶといっても限られてくる。それでも俺の為に選んでくれると思うと、そのこと自体が嬉しかった。

「どんなのがいいの?」
「軽いやつっスね」
「前と同じヤツ?」
「結構古いんで、新しいのも見たいです」

 正直、自分だけなら前と同じやつを買って終わりかもしれない。でも、せっかく二人で出かけているから、少しは長くいたいと思う訳で。
 なまえさんは何度か頷いて、いいのが見つかると良いねと笑った。今、絶対顔赤い、俺。にやけんな。

「ねぇ、知ってる?靴って夕方に買うのがベストらしいよ」
「は……?何でですか?」
「足のサイズって15時くらいに一番大きくなるんだって」
「へぇ。あ、でも。何となく分かるかも」

 放課後より朝練の時の方が、足が小さい気がするんだよな。寒さで縮んでいるのかと思っていた。詳しいことは分からないけど、何も俺だけではないらしい。

「影山くんは沢山飛ぶし、ハイカットの方がいいよね」
「そっすかね」
「うん、コレとか?」
「あー……足首の部分、固いやつの方がいいですよね」

 デザインより機能性重視、考えていることは同じらしかった。着地した時の足首の感じが気になるから、片端から履いていく。
 踏みしめながら確かめる。その足元になまえさんが屈んで、足首の後ろの部分を触った。

「どう?これ結構いいと思ったんだけど」
「……っ!」
「影山くん?」
「あ、う、コレ!にしま、す」
「本当?コレ、良いよね」
「はい、すごく……良いです」

 下から覗き込む様に見上げてくる顔はいつも通りなのに。少しだけ覗く胸元にばっかり目が行くのは、どう考えても俺が悪い。
 でも、良いもんは良い。

「お役に立てて良かったー!」
「あの!部活に戻るつもりでいるんですけど、なまえさんも一緒に行きましょう」
「あはは、それはお誘いじゃなくて決まり事なんだ」

 強引だなぁ影山くんは、そう言って笑ったなまえさんは、もう歩き出していて。俺はこの日も、彼女の背中ばかり見ていた気がする。
 あ、胸元も見たけど。



***続***

20140312


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