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応援するよ


 最近よく会う後輩が、クラスの後ろのドア側に立っているのを見た時は流石に吃驚した。大きくて、周囲にも注目されていて。
 それでいて微妙に落ち着かないのか緊張からか、周囲を無差別に睨んでいるみたいに見えて、ちょっと怖い。

「影山くん、夕に用?」

 ドア側にいた男子が完全に勢い負けしていて話が進みそうになかったので、私から進んで声をかけてみた。多分、夕に用事なんだと思ったし。
 ところが私を見た影山くんの表情を見て、どうやらそうでもないかもしれないと考えを改めた。

「イエ。なまえさんに……」
「どうしたの?」
「言いたいことが……あって」
「あー……ちょっと移動する?」
「ハイ」

 ドアの前まで行ったのはいいものの、あからさまに注目の的だ。無理もない。影山くんって背は高いし綺麗な顔立ちしているし、モテそう。
 それに1年生が上級生のクラスに来るってあんまりないし。緊急の用かな、何だろうって野次馬的な興味もあるよね。
 私達は注がれる興味と好奇の目をかわしながら教室を出た。



 影山くんと私がよく遭遇する中庭まで降りることにする。私に歩幅を合わせてくれる影山くんは、教室へ来た時と同じような顔をしたままで。
 何か言いたくてウズウズしている。こういう顔、夕もよくするんだよね。大抵バレーのことだけど。影山くんも似たようなタイプの気がするなぁ。

「歩きながらでいい?何かあった?」
「すみません。急に」
「ううん。どうしたの?」

 斜め横を見上げると、遠くを見たまま浅く呼吸を吐き出した。その顔がやけに深刻そうで、あまり良い予感はしなかったけど。

「6月に試合があります」
「うん、インターハイ予選だよね?」
「あ、ハイ」

 頭を振りながら確認する影山くんは、少し挙動不審だ。今更周りを気にしたって仕方ないのに。けれど次の瞬間、影山くんはその大きな体を曲げた。
 背筋が綺麗だ。そんなことを思っていたら、珍しく下から突き上げてくる声。

「良かったら応援に来てください」

 影山くんが覚悟を決めたように切り出した言葉に、失礼ながら拍子抜けしてしまった。でも、それくらいは許して欲しい。
 今まで結構なことを言われた経験から、影山くんが切り出す寸前に私も少し覚悟を決めたんだから!だけど良かった。これは答えやすい。

「えっと、行くつもりだよ!」
「西谷さんだけじゃなくて、俺の応援に来てください」

 顔を上げた影山くんに、私は今度こそ軽くジャブを食らわされたような感覚に染まっていく。スラスラと彼から出てくる言葉は、俄かには信じがたくて。
 表情が変わらないから余計に。でも聞き返したらいけない位、はっきりと聞こえた。

「皆の応援!するよ?」
「……あー、分かってます」

 頭を傾げながら口が尖っていく。あ、この顔している時は不満か考えている時だ。影山くん、よくこの顔しているもんね。
 もうすっかり覚えちゃったよ。

「分かってるんですけど、その」
「……?」

 言い辛いことなのか、考えがまとまらないのか。影山くんがしゅんと顔を伏せたから、いつもは見えない旋毛が覗く。
 大きい犬みたいで、ちょっと可愛い。この独特の不機嫌顔も、慣れてきたら親しみを覚えた。

「うん、影山くんを応援するよ」
「……!本当っすか?」
「……っ?うん!」

 ぱぁっと顔が上がって、彼は分かりやすく驚いていた。その顔が嬉しそうに見えたから、私もつられて顔がふやける。
 なに、この可愛い生き物!

「あざす!」
「そんな、大袈裟な……」
「そんなことないです。おっしゃ!練習しないと」

 胸の前でパシンと拳を収めた影山くんは、気合充分だ。まだ昼休みは始まったばかりだけど、ご飯はちゃんと食べたんだろうか?

「えっと、今から?」
「格好悪いとこ、見せられないじゃないですか」

 にっと笑った顔が、体がピリっと引き締まる程自信に溢れていて。やっぱり、夕と影山くんは少し似ているところがある。
 自分の才能に溺れることなく、努力の上乗せを怠ったりしないから。信頼しているんだ、自分を。だから、そんなこと言えちゃうんだ。

「すごいなぁ、充分格好良いよ」
「なまえさんは、ズルイですね」
「えっ!?何で?」
「……失礼します」

 丁寧にお辞儀をされて、少し恥ずかしかったし納得しかねたけど。影山くんのむずむずっとしたにやけ顔が脳裏に張り付いて離れない。
 私に出来ることは応援くらいしかないけど。応援が力になるなら。頑張れって叫ぶよ。



***続***

20131212


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