×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


受諾する1


 小さい頃から俺はいつも、ガキが集まればお山の大将だった。同年代の子に比べて背は高かったし、人をまとめるのも嫌いじゃない。
 親戚同士が集まると年齢もバラバラで小さいのもいたけど、俺は一人でいるようなやつも引っ張って巻き込むのが定番だった。
 なまえとは親戚同士、同じ年の子ということもあって小さい頃は親同士が相談したり行き来したりするのが頻繁で繋がりが強くて。
 俺と違って背が低く、引っ込み思案で人見知りのする彼女を、無理矢理遊びに参加させるのはいつものことだった。
 最初は嫌われていたかもしれない。なまえは泣き虫で、運動だって得意とはお世辞にも言えなかった。まぁ研磨だって得意とは思えないから、そこは気にならなかったけど。
 でもかくれんぼで見つけられずに泣いている彼女を最後に見つけるのは俺の役目で、いつからか同じ年なのに俺を兄みたいに慕ってくるのが可愛かった。

 小さい頃は頻繁に会っていたけれど、それも段々と疎遠になる。親同士はずっと仲が良かったみたいだが、東京と仙台という距離は大人にも遠かった。
 それでもずっと、俺たちはやり取りを続けている。長期休みにはなまえの両親がこっちに帰省するから、年に二回は会ったりもしていた。
 なまえは小さい頃のまま、相変わらず俺を慕ってくれる。その信頼が何よりも嬉しくて、応えようと努力していたのは事実だ。
 それでも年々あどけなさが抜けて女性に成長していく彼女を見る度、心の奥底で後悔は沸いてきた。俺が演じていた優しい親戚のお兄ちゃんは、結構損な役回りだと。

(鉄朗、聞いてる?)
「んあ、おお。聞いてる聞いてる」
(もー!絶対適当に聞いてた!)
「それって聞いてるだろ」
(う、うう。意地悪)
「俺はなまえにすげー優しいって。マジで」
(ふふ、知ってる)

 電話越しに聞こえてくるのは、聞きたくもないなまえと今付き合っている男の話。中学3年から繰り返される様になった男関係の話は、大体愚痴。
 もしくは泣き言。なまえの男運の無さはなかなかのもので、いつも強引で勝手な男に振り回された挙句に捨てられる。
 最初は真剣にアドバイスしたり別れろと言ってみたりしたけれど、なまえがそんな事を俺に求めていないと分かってからはやめた。
 こいつは、電話で話を聞いてもらうことが主目的なのだ。否定なんてして欲しい訳がない。だから俺もバレー雑誌を捲りながら、話半分に聞いていた。

(今度会えるのはお正月?)
「多分な。お前背、伸びた?」
(その質問は受け付けませーん)
「俺はまた伸びたぞ」
(どんだけ育つ気……ちょっと分けてよ)

 なまえが俺に話を向けてくれる時は姿勢まで正すんだから、俺も始末に追えない。年に二回しか会えないような女。
 しかも彼氏はしょうもない男で、そのくせ反省とか次に生かすことをせず大体同じタイプの男と付き合うような奴。
 もし知り合いがこんなタイプの女を好きになったら、「追っても無駄だからやめとけ」って言う。分かりきっているのに、ずっと。

「なまえ、今の男どうだ?」
(え、花巻?)
「それそれ」
(微妙。好きって言われて付き合ったわけじゃないし。結構勝手だし)

 勝手なのはお前もだろうとは口に出さない。散々他の男の話を聞かせるくせに、俺に女の話を聞いてきた試しがない。興味ないんだろうな、とは思うけど。
 それでも今の男とは最長記録を更新中で、いつもよりはずっといい奴なんじゃないかと密かに思っている。別れて欲しいのか別れて欲しくないのか自分でも複雑だけれど。

「お前はもっと自分を大事にしろ」
(ありがとう。鉄朗みたいな人と結婚出来たらいいのになぁ)
「……なんだ、ソレ」
(優しくって面倒見がいいし、誕生日とかちゃんと覚えててくれてマメだし理想の旦那様!って感じ)

 なまえの言うそれが世間一般の理想とか雑誌から得た大衆意見の話だと分かっているのに、何処かで期待を捨てきれない自分がいた。
 ずっと小さな頃から俺が守ってやらなきゃいけない、迎えにいかなきゃいけないと思っていた女の子。背や体が成長しても、子供染みた願い事ばっかりしているガキ。

「おー、お前が30なっても売れ残ってたら結婚してやるよ」
(うそ!28にして)
「何で?」
(鉄朗モテそうだから30まで待てない)
「二年の違いにどんな差があるのかねぇ」
(いいの!約束ね)

 約束。これもまた、きっと果たされることはないだろう。小さい頃に交わした約束も、なまえはすっかり忘れてしまっているから。
 それとも、ガキの頃の想いをこんなに引き摺っている俺の方が異常なんだろうか。そう思ってみても、なまえと繋がっていられる間は捨てきれる気がしなかった。



「……ろ、クロ」
「お、おお。研磨、どうした?」
「どうした、じゃねーぞ!部活中、集中しろコラァ!」
「何で夜久はあんなに荒れてんだ、ついに女と別れたか?」
「っるせー!違うし!お前の話だよ、お前の!」
「ああ、悪ぃ」
「……大丈夫なの?」

 少し考え事をしていたのを気付かれたのか、研磨が大きな瞳を逸らさずに向けてくる。探られている感覚に陥って、誤魔化す様に頭を乱暴に混ぜた。
 当然、嫌がる研磨に逃げられて夜久からは遊ぶなと怒られる。練習中に余計なことを考えていたのはどう見積もっても俺が悪いので、反論はしなかった。

「心配事でもあるのか?」

 練習終わり、制服のネクタイを締めながら聞いてくる海の声は静かなもので。こっちを見向きもしない辺り、気を遣われているのだと分かった。
 ロッカーに備え付けられている小さな鏡を覗き込む。いつも通り少し目つきの悪い顔があるだけで、変化があるようには見えなかった。

「アレっすか!恋患い!」
「ほー、リエーフは難しい言葉知ってるなぁ」
「馬鹿にしてんでしょ!夜久さん!」
「へ!?夜久さんに続いて黒尾さんまで彼女持ちとか!う、裏切りだぁぁぁぁ!」
「山本うるさい、あとクロに彼女いないから」

 ロッカーを閉めたと同時に叩きつけられた研磨の声が部室に響く。一瞬静まり返った部屋で、視線を向けられている俺は首を竦めて笑うしかなかった。
 夜久がわざとらしく盛大なため息を吐く。リエーフの言葉を否定しなかった俺は、だったら何なのだとでも思われているだろうか。

「お前、まだあの子と連絡取ってるのか」
「逆ぎゃく、連絡来ねぇんだよ」
「だ、誰っすか?」
「……親戚。クロの絶賛片思いだけど」
「研磨さん、傷心のガラスのハートにハンマーで殴りかかるのはやめてください」
「そのガラス、随分分厚いね。十数年の間に補強でもしたの?」


[*prev] [next#]
[page select]
TOP