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束縛する1


 運んでこられたチーズチキンパニーニは、匂いだけで食欲をそそる。隣の松川も大きく喉を上下させて、それを見た目の前の及川が満足気に笑った。

「痛っ!何すんのさ、マッキー!」
「何かむかついた」
「すげー分かる」
「ちょっと!岩ちゃんまで酷くない?それって虐めじゃない?まっつん!何とか言って!」
「あー、俺もハンバーグよりパニーニにすれば良かったかも。ここのオススメなんだっけ?」

 ぎゃあぎゃあ喚く及川を松川も俺もスルーして、視線の先に派手な音をさせる鉄板を捉えた。松川の注文したハンバーグを運んでくるのが、本日の最大の目当て。

「ハンバーグのお客様」
「はーい」
「ありがとね」
「及川さん。今日はお友達と一緒なんですね。ごゆっくり」

 愛想よく挨拶をしたウェイトレスが去ると、及川が一層だらしなく笑った。岩泉が軽く肩パンを決めても全然堪える様子は無く、やっぱりイラっとくる。

「ね、ね、可愛いでしょ?」
「ハイハイ、可愛いねー」
「言っとくけどマッキー!変なことしないでね!」
「うるせぇぞ、クソ川。彼女でもないくせに偉そうに」
「それ嘘じゃなかったんだ?」
「ちょっと!岩ちゃん、それ今言う?今必要ですかー!その情報!」

 ポテトを三本ほど一気に頬張る岩泉は聞いちゃいない。俺も息を零すだけに留めて、パニーニに口を付けた。うまい。
 正直言うと、こういうのは何処でも同じ様な味だと思っていた。俺が驚いたことを目敏く感知した及川が、何故か自分が褒められたかのように踏ん反り返る。

「美味しいでしょ?だから俺、月曜日は最近ここなんだよね!」
「女目当てだけじゃないって?」
「松川、言い方……」
「さっさと振られろよ、鬱陶しい」
「嫉妬ですか?岩ちゃんってばモテなくてついに女の子に嫉妬……痛ぁぁぁ!熱っ!」
「これうまいわ、店員さんも可愛いし俺も通うかな」
「……っ!駄目!やっぱ駄目!」
「へぇ?」
「花巻」

 今までは告白された中から相手を選んでいた及川が苦戦しているというから見に来れば、何てことはない。相手はどこにでもいそうな可愛い子という感じで。
 俺には固執している理由がさっぱり。それでも机の下で岩泉に足の脛を蹴られる位には、からかったらいけない事なんだろう。

「はいはい、冗談だよ。休みの日までお前らと顔合わせていたくないの」
「マッキー、彼女いるじゃん!」
「あー、隣のクラスの小さい美人」

 軽い意趣返しのつもりだったらしい及川が、俺の話に持っていこうとした。適当に相槌を打った松川も、何も悪気なんかない。
 それでも面白くないのは自分ではどうしようもないから、無視を決め込んでパニーニを齧る。大口でつっこんだ一口が多すぎて、慌ててコーヒーを飲む羽目になった。

「……熱っ!」
「なに、上手くいってないの?」
「お前人の心配してるほど余裕あんのか、クズ川」
「岩ちゃんは何でも俺の悪口に繋げんのやめてよ!話進まない!」

 話を広げる気がないんだと、気付いてくれないものかね。半目を作ってため息を吐く。すると察しの良い及川は、唐突に好きな子の話をし出した。
 面倒そうな振りして話を聞いている岩泉にも松川にも、俺は感謝しなくちゃ。あんな可愛らしい恋の話の後じゃあ、俺の話は湿っぽいから。



 そんな事を思いつつ、結局足はなまえのところへ向かう。何も及川みたいに初々しさを求めている訳でも、誠実に好きだと直球で訴えている訳でもないけれど。
 どうしようもなく乾いた気持ちになるのは、俺の所為かな。

「なまえ」
「花巻……そっか、月曜日か」

 玄関で俺を招き入れたなまえは、まだ制服のままで。靴下だけを脱いでいるのがいやにちぐはぐだった。それでも視線を足に向けてしまうのは仕方ない。
 平日のこの家に両親がいないのはいつものことで、俺も慣れた調子で靴を脱ぐ。彼女もそんな俺を見ている様子もなく、スリッパだけ差し出すとリビングへと消えていた。

「お茶でいい?」
「ん」
「今甘いものないけど……」
「いや、いいや。今日は部活のやつらと軽くメシ食ってさ。パニーニ?」

 二人でいると沈黙は長く感じて、相手が聞いているのかも興味があるのかも分からない言葉で場を凌ぐ。なし崩し的になまえと付き合って半年。
 バレーばっかりしている俺は、交友関係も広く誘いも多い彼女には退屈かもしれない。なまえが机に飲み物を置いて同じソファに座ると、自然な流れで引き寄せた。

「花ま……んっ、」
「なんで靴下脱いでるの?無駄にエロいんだけど」
「……っふ、ぁ、むだって、っん!」

 結局会話らしい会話は出来ず、同じ行為に行き着く。どうしたって我慢出来ないんだから、なまえのせいにしてしまいたかった。
 ソファに押し付けると挑むような目つきで見てくる。知っている。彼女もまた、俺と体を重ねるだけじゃ不安は消えないってこと。
 俺もこんな顔をしているのかと思うと、可笑しくなってこみ上げてきたものをぶちまけた。

「なまえ、俺のどこが好き?」
「……体の相性?」
「それ、友達とかに言っちゃ駄目だからね?」

 優しく諭すように言ってみたけど、相手は半目で睨んでくる。別に不満な訳じゃない。俺らって好きで好きでしょうがない、みたいな感じじゃないし。
 でも、自分だってそうでしょうと決め付けてかかられるのは傷つく。俺なりに大事にしようとか、この関係をどうしようとか。
 漠然と悩んでいるとは思うし。だからこそ、及川が煩わしく映るんだ。


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