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あれ、これが恋ですか?


あれ、実は私です。の続き



 春。それは出会いと別れの季節。そして俺にとっては必ずと言っていいほど同じ現象を味わう季節でもあった。毎年いるんだ、一人や二人……いや、もっとか。
 俺の顔と頭を見て怖いって泣くお嬢さんが。特に下級生。今年も困っているみたいに見えた一年生に声をかけたところで、泣かれてやっぱりかよって思ったけれど。
 今年の春が少しだけ違っていたのは、その俺を見て泣き出した女子がわざわざ弁明してあれは誤解ですと言ってくれたこと。
 それどころか、俺が好きですと言い逃げまでしてくれちゃったこと。お陰で俺はパニックになってしばらく寝不足で。
 混乱したまま姉ちゃんに話してみたら「はぁ?妄想の話?」とか言われる始末。その内あれは幻か都合良い夢だったと思い始めた頃。
 彼女、みょうじなまえは再び俺の前に現れた。



「た、田中先輩はいらっしゃ……」
「おおおおおい!田中、何でか知らないけどお前に女の子が用事!」
「ゴラァ!その余計な情報いるんですかコラ!って誰……あ」
「……っ!申し訳……」
「だぁ!泣くな!泣くなよ、頼むから!」
「な、泣きません」
「うわぁ。田中が下級生泣かそうとしてるー!」
「最低ー!」
「うるさいぞ、外野!あ、あー……みょうじ、サン。ちょっとこっち、来てくれ、さい」

 あの日と同じ様に、俺の大声にビビって顔をひくつかせる女の子。二度目の再会の時の記憶は擦り切れそうな程脳内で再生したから、名前もバッチリ覚えていた。
 みょうじさんは上唇で下唇をかみ締めながら強く頷いて、俺についてくる。少しだけ早足気味の足音が俺に続いてくる感じが、どうしようもなく胸をざわつかせた。

 人気のない校舎の裏側まで歩いて、ここでいいかと足を止める。振り返ると見上げてくる顔にはまだ不安そうな表情が滲んでいて、何か言わなくてはならないと思った。
 でも、彼女が何故俺を訪ねてきたのかは分からない。下級生の女子に呼び出されるという人生初のイベントに、完全に浮かれて舞い上がっている。

「あー、えっと、その、何だ」
「ごめんなさい。クラスまで行ってしまって。あんなに騒ぎになるとは思わなくて」
「いや、それは気にすんな。別に慣れてっから」
「……田中先輩は、人気者なんですね」

 今の今まで泣きそうだった顔がやんわりと緩んで、笑った顔は可愛かった。いや、正直俺を好きだと言ってくれる子なんて可愛いに決まっていると思っていた訳だが。
 実際、幻じゃなかったんだと実感すればその破壊力は段違いだった。泣き虫で儚げな表情ばかりが印象としてあった所為もある。
 みょうじさんが笑うと心がきゅっと音を上げた。潔子さんとはまた違う、癒し。

「いや、そんな事は……」
「あ、あ、あの!」
「おお、おう!」
「私がこないだ言ったこと、覚えてますか?」

 こないだというのは勿論、好きですと言い逃げた事だろうか。そんなもん、忘れる訳ないだろうと言いたい。こちとら夢にまで見た。
 両手を胸の前で握り締めているみょうじさんの顔は、どんどん真っ赤になっていく。それなのに真っ直ぐ見つめられて、男として逃げちゃいけないと理解した。

「ああ、覚えてるぜ」
「私、田中先輩のこと好きです」
「……っ!」

 二度目の告白は、上目遣いで下からまともにくらって。俺は思わず口に手を当てて変な息が漏れるのを堪えた。やべぇ、かなりクル。

「田中先輩?」
「ああ、いや。すまん、続けてくれ」
「はい。あの、急に迷惑かもしれませんが、これから私のこと……少しずつ知っていってほしいなって思います」

 言い終わったみょうじさんは肩で息をしていて、緊張したのか握り締めていた手が震えていた。さっきまでの視線はもうなく、今度は俺がまじまじと見回す。
 可愛いだろ。可愛過ぎるだろ。涙が勝手に出ちゃったとか言っていた子が、俺にちゃんと向き合おうとしている。その意気たるや。
 悶々と自分の脳内だけで完結させようとしていた俺は情けない。というか、ダサい。

「フンヌァァア!」
「ひゃあ!」
「泣くなよ!これは自分への喝みたいなもんで。あの、みょうじさん!」
「はい、泣きません」

 ぴしゃっと両頬を手で挟んで、反省は一瞬で済ませた。いつまでも女の子にばっかり言わせっぱなしは男として最悪だと思うから。
 一つ深呼吸をして、それから自分の本音を言った。

「俺は正直、何で俺なんだって思ってる。困ってる人に声かけるのなんか当たり前のことだし、その、可愛い子が困ってるなら尚更……下心あるやつだっているし」
「か、わ……?」
「あああ!俺は違うぜ!断じて!」
「はい、田中先輩はそんな人じゃありません」
「だから。みょうじさんは人を簡単に信用し過ぎだと思う。俺だって良く知りもしないくせに、ここ最近はみょうじさんのことばっかり考えてた」
「本当、ですか?」

 切り出した時は浮かない顔をしていた彼女が、大きな目をパチパチさせて驚いている。記憶の中と違う表情を見る度、ムズムズと嬉しくなってくるからヤバイ。
 何だ、これ。いい加減な態度を取れないと思うのに、その一方で俺も好きだって言い包めちゃってもいいんじゃないですかね、みたいに悪魔が囁く。

「おう。嬉しかったのも本当だ。でもそれは、みょうじさんだからってことじゃなくて……あああああ、くっそー!」
「た、田中先輩?」
「正直すんげー可愛い。俺のこと好きとか言ってくれるのがまず可愛い。真っ直ぐぶつかってくる奴も好きだ!でも、俺は……っ」
「もしかして、他に好きな方が?」
「は?あ、いや。潔子さんは憧れであるからして好きとか付き合いたいとかそういう次元ではなくて……っていない、いない!」

 まずい。潔子さんとか名前出す必要あったんだろうか。首を少しだけ傾けたみょうじさんが悲しそうな表情をするだけで、悲しませたくないと思ってしまう。
 伺うみたいに覗き込んでくるみょうじさんの目が、俺を真っ直ぐ捉えて。好きになって貰えるよう、頑張ります!なんて言ってくれた日と同じように笑った。

「じゃあ、これから私を知って、私を好きになってくれる可能性はあるってことですよね」
「好……っ!」
「不安で心細かった時に優しくしてくれたのに失礼な態度を取った私に、大きな心で私が平気ならって言ってくれた田中先輩のこと、ますます好きになりました」
「そっ、それは、」
「少しでも可能性があるなら、諦めきれません。好きになってもらえるよう、努力してもいいですか?」

 またきゅっと唇を噛んだみょうじさんの大きな瞳が揺れていて、今にも泣き出しそうだ。それを止める術はないものかと両手を突き出して構えながら、頭を高速で縦に振った。
 すると涙を目尻に溜めながら柔らかく笑うから、俺の心臓がぶっ壊れたかと思うほどうるさくなって。もう十分、俺も好きになっちゃったんですけどどうしたらいいですか、とか。
 聞いてみたら、やっぱり泣かせちまうんだろうか。



***end***

20140726

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