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休日も二人で2


 水を絞りながら歩いても、張り付いたパーカーの感触は消えない。椅子に座ることが出来たので、パーカーを脱いで干すことにした。
 ちょうど日が当たるところだし、運が良ければ乾くかも。そう思って袖口を念入りに絞っていると、反対の席に座っていると思っていた蛍くんの声が、すぐ傍で聞こえてきて。

「温かい飲み物あるか分からないけど、ちょっと買ってくる。ご飯は適当でいい?」
「え、あ、私も……」
「いいから座ってなよ。そこ温かいでしょ」

 そう言ったらもう歩き出してしまっていた。テーブル席には、少しだけ日光が差し込むようになっていて温かい。私はぬくぬくとその恩恵に浸って、体も乾かしていた。
 やっぱり優しいいつもの蛍くんだなぁと考えながら、足をぷらぷらと遊ばせていた時だ。テーブルに影が差して、何だろうと思ったら声をかけられた。

「おっねーさん!」
「可愛いねぇ、一人?」

 上を向こうとすれば、もうすぐ近くに顔があって。逆立てた金髪は、蛍くんの髪色よりもさらに濃い黄色だった。
 吃驚して椅子まで体を後退させると、椅子の後ろから別の男の人の笑い声が漏れ聞こえてくる。これは、もしかしなくても、そうだ。アレだ。

「あの、私。お金は持って無くて」
「っぷは!おい、カツアゲと思われてるぞ!」
「うっせ、黙ってろ!あのね、君ね。これ何か分かってる?」

 そう言って目の前に掲げられたのはリストバンドだった。笑った口の中にピアスが光っていて、失礼ながら不良に見える。
 でも、偏見は良くないと思って首を縦に振った。

「ココはこれで全部お会計すんの!カツアゲとか誰もしないから。一緒に遊ばないかなぁっていう、お誘い?」

 にこにこと笑っているピアスさんは、いつの間にか椅子を引いて隣の席に座っている。知らない人に声をかけられて、てっきりカツアゲだと思っていた。
 どうやらそうではないらしく、一緒に遊んでくれる人を探しているらしい。すっとピアスさんの後ろに移動したもう一人の男の人は、蛍くんと同じくらい背が高かった。

「あの、私、人を待っていて!」
「じゃあその子も一緒に遊……」
「ぶ訳ないから。そこどいてくれませんかね?」

 説明しなきゃと気負っていたら、蛍くんがすぐ近くまで帰ってきているのに気付かなくて。それなのに顔を見ると安心してしまった。
 私が目を向けると、明らかに蛍くんはピアスさんを見下ろして睨んでいる。後ろに立っていたもう一人の人も、蛍くんの迫力に押されて数歩後ろに下がった。

「こえー……」
「なーんだ。デート中かぁ。つまんね。次いこ、次。まったねー!」
「……あ」

 さっと立ち上がったピアスさんが、笑顔全開で手を振ってくる。蛍くんからの視線を痛いほど感じるので、それに応えることはしなかった。
 周りが静かになると、蛍くんが思い出したかの様に溜息を吐く。体がびくっとなるのを押さえ込んで、立ったままの蛍くんに椅子を引いてみた。
 それはピアスさんが座っていた席で、蛍くんは先に持っていたテイクアウト用のお盆を机に置いてから座る。渋々といった様子を崩さない彼に、続きがある気がして黙っていた。

「全く。何で待ってるだけが出来ないの?」
「あ、ありがとう。蛍くん」
「だから嫌なんだよ。こんなとこ」
「ごめん。やっぱり、嫌だったよね」

 蛍くんがこういうところを苦手としているのは知っていたし、今日だって来てくれるなんて思っていなかった。正直、私は浮かれていたのかもしれない。
 冷たくなるまでパーカーを濡らしっぱなしにしていたのもいけなかった。一緒について行けば、少なくともこういう事態にはならなかったかも。

「パーカーなんか要らなかった。ちゃんと蛍くんについてけば良かった」
「はぁ?余計駄目だろ、さっきみたいのに絡まれるのも水……」

 私が弁明を重ねている間に、蛍くんのダメ出しが響く。それなのに途中で途切れて、口を覆って目を逸らされた。何で?
 瞬きをしてから首を傾けて数秒。いつまで経っても聞こえてこない続きに痺れを切らして、少し蛍くんの顔を覗き込もうとしたら額と目を大きな手で覆われた。痛い。

「なまえが悪い」
「ごめんね、でも痛い」
「精々タンキニかワンピースだと思ってたのに」
「あの、これ、変かなぁ?」
「変なんて言ってない」
「友達がね、蛍くんに喜んで貰えるようなのにしなよって言ってくれたから、自分なりに考えたつもりだったんだけど……」

 ダメ出しの対象が水着なんだと気付いて、しょげてしまったのは内緒だ。淡い色合いを褒めてくれたことがあるから、自分には合っているのかなぁなんて思い込んでいた。
 段々下を向いてしまって蛍くんの顔が見られない。すると頭上から降ってきたのは、いつも通りのテンションに戻った呆れた声。

「はぁ?」
「ま、前にシュシュ可愛いって言ってくれたでしょ?だからそれに合う色にしたんだけど……変だったかなぁ?」
「……っ!そういうの、本当やめて」
「え?」
「素直に可愛いって言わない僕が悪いみたいだろ」
「か、可愛いよね!この水着」
「なまえもね」
「……っ!っ!」
「やっと黙った。ほら、焼きそば食べよ」

 そう言った蛍くんはもう食べ始めていて、差し出された割り箸を受け取って私もそれに従う。体中がぽかぽかして、もう寒くなんかなかったけれど。
 蛍くんが目を合わせてくれなくて、耳がほんのり赤いこととか。せっかく今日来てくれたんだし、指摘しない方がいいんだよね?
 この後も一緒にいられることがとても嬉しいけど、それも言ったら怒られちゃうかな。



***end***

20140802

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