体育館から出て、裏口へと続く階段に腰を降ろす。踏み切る時の足と手の高さや角度を確認しながら、何度も何度も口の中で反芻した。
いつまでも、試合に出ないつもりはない。そう言って教えて欲しいと頼み込んだ、ジャンプフローターサーブ。
理屈は叩き込んだし、練習だってしている。それでも思い描いた理想と、身体がイメージぴったりに重なることなんてまだ遠くて。
役に立ちたい、チームの力になりたいと思っているのに、コートの外から応援することしか出来なくて歯痒い。
ツッキーみたいに格好良くブロック決めたり、日向みたいに高く飛んで囮になったり。影山みたいに試合を作れるとは思ってない。
自分自身がやれることを。背伸びでも真似でもない、俺が出来る努力でモノにしたい!試合に出たい!
拳を何度か握ってため息を逃がした。
分かっている、分かってはいるけど。一年で試合のスタメンじゃないのは俺だけだし、羨ましいと思う気持ちもやっぱりあって。
「はー……」
重なったため息に驚いて、何時の間にか下がっていた顔を上げる。自販機の下の方で蹲っていた、女の子の目とかち合った。
「うわ!え、と?」
弾けるように立ち上がって、首にかけていたタオルがずり落ちる。それを見ていた女の子が、目を瞬かせてから、笑った。
「ごめん、何か邪魔しちゃった?」
「ううん。私の方こそ、気付かなくて」
彼女が俯いたのをいいことに、上から下まで観察する。
体操服から伸びた手足は長くて白い。手首のリストバンドは、女バスの一年生がお揃いで付けているヤツだ。
「どうしたの?」
こんな時、物怖じせず話し掛ける性格で良かったと思う。泣きそうな顔して力なく笑った子を、ほおっておくなんて出来ない。
「あ、私バスケ部で。3Pシュートの練習してるんだけど……」
「うんうん」
「頭の中では、綺麗に吸い込まれるイメージなの。でも、実際は……」
シュートを打つふりをして、挙げられた手は綺麗だった。彼女も俺と同じようなことで悩んでいるみたいだ。
それが嬉しい。嬉しいなんて、卑怯だけれど。
「山口くんも、何か悩んでた?」
名前を知られていたことに驚きつつ、距離を詰める。
真っ直ぐで、壁にぶつかっていたとしても、それをやめようとしない意志のある瞳に、自分を映していたいと思った。
「サーブを練習してて、えっと君……」
「あ、みょうじ なまえです」
「みょうじさんと同じようなもんだよ。近付きたい理想がある。でもまだ届かないんだ」
噛みしめるように頷いて、みょうじさんは眉毛を垂れた。その顔にドキリとして、急に自分の汗臭さが気になり出す。
「あ、まだ練習終わってないんだ」
「ごめんね、引き留めちゃった」
「違!あの、あの、ね」
「……また話聞いてくれる?」
「勿論!」
肝心な所が言えなくて、格好悪い。みょうじさんの好意に甘えるように、何度も頷いて、手を振った。今度会ったら、どうして俺の名前を知っていたのか聞いてもいいかな?
体育館への足取りが軽いのは、絶対に気のせいなんかじゃない。
***end***
20131025