「何してんスか?」
「え、あ、あは、あはは!」
「手伝いましょうか」
「……タスカリマス」
一番見られたくない相手に見つかってしまった。
影山くんを上から見下ろすなんてしたことのない私は、旋毛をマジマジと見ながら恥ずかしさで言葉を濁す。
さっきまでこの世の終わり位に落胆していたのに、救世主が現れた途端がっかりするなんて罰当たりもいいところだ。
「なんだって、木の上なんか登ったんスか?」
「鳥の雛が……親鳥が!」
「何となく分かった」
ついに取って付けたみたいな敬語すら、影山くんの口調から消えてしまった。伸ばされた手を掴んで、不安定さに震える。
「しっかり掴まって。降りてきてください」
「う、ごめんね」
「そういうの後でいいんで」
眉間にシワを刻みながら、面倒くさそうに言われた。この中庭で出会って喋るようになってからというもの、その表情はよく見かける。
別に私に対して特別に嫌悪感を抱いているわけではないと言うことを、知ってはいるけれど。
「ごーめーんー」
「いいから降りて!折れそうっス」
「嘘!いやぁぁぁ!」
躊躇っていたのはどこへやら。折れそうの一言で、乗っていた木の枝から勢いよく飛び降り、影山くんに向けて体重移動してしまった。
しっかりと受け止められたまま草むらを転がって、気付いた時には目の前に影山くんの胸が広がっていた。大きいなぁ。
「ごめん!重いよね、ってか木!折れ……折れた?」
起き上がって確かめようにも、頭を押さえられていてそれは出来ない。段々とこの状況に恥ずかしくなって、顔に熱が集まってくる。
「あれは嘘なんで大丈夫です」
「嘘?ひど……焦った!」
「降りれたでしょ?ちょっと静かにしてください」
落ち着いていられない私とは対照的に、影山くんはふつふつと笑い出した。
どんな顔して笑うのか見たかったけど、それは叶わない。
「何で笑ってるの!」
「いや、ついてるなって」
「はぁ?」
「なまえさんが好きです」
「……なに?」
「好きなんです」
「え、えっ」
「好きだ」
「分かったよ!」
やっと頭を解放されて、勢いよく飛び上がる。見上げた顔は、真っ赤に染まっていたけれど。
相変わらずの眉間にシワ。口も変に尖ってるし。
「何か……怒ってる?」
「捕まえとかないと、アンタ危ないことばっかりするから」
「それは……!」
伸びてきた大きな手が、私の頭を覆った。すごく大きな手。マメが出来てゴツゴツしていて、頑張っている証。
その手に包まれる安心感を思えば、バレーボールが羨ましかったり、するよ。
「影山くん」
「飛雄」
「え、あ……飛雄くん」
「……チッ」
舌打ち聞こえてるぞ、このやろう。
このまま馬乗りのままでいてやろうか。あ、私が恥ずかしいからそれはやっぱり駄目かな。
「私もだよ」
「そ……っ!……スか」
何だかすごく驚いた顔をするから、意外だった。
次にゆっくり口の端が上がって、笑っているんだと気付いたけれど。
「あはは!眉間!口!」
「うるせー、口塞ぐ!」
やっぱり変な顔だったから笑っちゃった。
こんなヘンテコな笑顔でも、彼が私のヒーローなんです。
***end***
20131025