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jump the gun


 新しく入った一年は、癖があるけどとにかくバレーが大好きなやつで。待ち続けた西谷と旭もコートに戻ってきた。

 メンバーが揃って、コーチもついて。部活は順調に波に乗った。それでバッチリ、絶好調のはずなのに。

「うーん……あー」
「何?スガが溜め息とか!珍しい!」
「俺だってへこんだり悩むこともあるべ」
「どうしちゃったの?」

 机に頭を抱え込んだ俺に、なまえが隙間から大丈夫?と声を掛ける。放課後がもう始まっていて、早く体育館に行きたいはずなのに、頭が重い。

「部活始まっちゃうよ?」
「分かってる」

 心配して貰えるのが嬉しいとか、我ながら女々しくて情けない。いつものように馬鹿な話をして盛り上がって、腹抱えるほど笑い合える方がいいに決まっている。

「どうしちゃったの?」
「な、どうしたんだろうね」



 全部が順調だと思っていた。
 この夏が終わるまではバレーに全力出して。それでいてなまえとは仲の良いクラスメートで。勿論、春高だってあるけど、勉強をきっかけに距離を縮めたり出来るかなって。
 我ながら、すごく打算的だけどさ。

「都合良過ぎた訳だ」
「何、何の話?」
「二兎追うものは一兎も得ずって凄い金言だなって」

 思いたくないけど思うしかない。
 なまえはそんな俺のボヤキに、スガがおかしくなったとか何とか言って笑っている。他人事のように言うなんて、全く呑気なもんだ。

 こんなに能天気なヤツでも、明るくてイイヤツ。だから、俺以外にも、魅力的に感じているヤツは当然いた訳で。
 俺が放課後や連休に部活に打ち込んだ分だけ、距離を詰めたヤツがいる訳だ。

「うわー、嫌な考えだな!」
「さっきから自己完結しないで教えてよ」

 口を尖らせてわかり易く拗ねながら、前の席の椅子に腰を落とす。机の端に手をちょこんと乗せて、その上に顎を乗せてこっちを見てくる。
 無言のおねだりってこういうのかな。なかなか……ああ、うん。悪くない。



「隣のクラスの伊藤……」
「え、スガ友達だったの?」
「全然。どんなヤツ?」

 お前に告ってきたのって。
 喉元でつかえた言葉は、生唾と共に呑み込んで。じっと見ていると、なまえは首を傾げて頭を浮かせた。

「ん、んんー、変わってる、かな?」
「それ褒めてる?」
「イイヒトだよ」
「いいひと、ね」

 自分から話を振ったのに、イライラきてしまうのはもうどうしようもない。肘を起こして頬杖をつき、窓の方へ視線を外せば。
 クスクスと楽しそうな声。

「何?私に告白してきた人がそんなに気になるの?スガチャンは!」
「な、な!」
「だって。今その話題ってそれしか理由ないんだもん」

 そんなに照れないでよ、こっちが恥ずかしくなるじゃん、なんて言いながら、もごもごと顔を下げてしまった。
 頭が机から消えてしまう。嫌だよ、顔、見せて。

「なまえ、頭上げて」
「何で、ヤダ!スガ怒ってるもん」
「怒ってないよ、顔見ろ」

 偉そうなことを言っておきながら、ここから全くのノープラン。だって知らなかったんだから、しょうがないべ。
 俺が好きな子に、こんな顔させることが出来るなんて。

「真っ赤だな。可愛いやつめ」
「……スガ、変!」
「そんなことないよ。誰だって嬉しいっしょ?」

 俺の言い方に納得が出来ないのか、なまえは机から上げた頭を少し傾けた。顔が赤いままだけど、挑むように見てくる目は答えを欲しがっている。

「好きな女にそんな顔されたら、誰だって嬉しいべ」
「……な、へ?」
「いやいや。あれだけ煽っておいてなんでそんな反応?」
「え、え、だって!バレー!」
「うわ、バレーと自分を比べてら」
「……スガの馬鹿!」
「あはは、なまえが好きだよ」

 俺は確かにバレー馬鹿だけど、なまえが好きだよ。俺にとってどれだけバレーが大事か、理解しようとしてくれる所も。
 そういったら、なまえは複雑そうに口を歪めたけど。最後には笑って言うんだ。

「私だって、好き。だから、大学は同じとこ受かってよね」

 バレーやめろなんて言わないから。
 そう言ったなまえの顔が女神様に見えたんだけど、俺は大袈裟かな。



***end***

20131025

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