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勝ちの行方


答えあわせをしてあげるの続き



 工業高校なだけあって、こんな私でも告白してくる人がいるということに驚いた。しかも、部活中のジャージ姿の時に。
 「一生懸命洗濯物を抱えているところが好きで」とか、なかなか変わった感性の方だなとは思うけど。いつの間にか壁に追いやられながら、漠然と思い出す。
 二口くんに「好きに決まっている」とか言われた時は、確か、三年生も引退する前で。私は引退しても、こうしてたまに顔を出してマネージャー業務をしている。
 新しいマネージャーが来てくれたのに図々しいかなぁとは思いつつ、出来るだけ二口くんの近くにいたいからだったりする。
 だから、やっぱりこれは断らないとなぁと思うんだ。

「あの、すみませ……」
「痛ああああぁ!」
「なまえさーん、遅くないっすかぁ?」
「え、二口くん?」
「これ持ってくだけ?」
「うん、待って今……」
「はいはい。行きますよ?」

 目の前の相手が押しやられていて、二口くんが私の持っていた荷物をかっさらってしまった。表情が全く変わらないから、ドキドキしているのはきっと私だけ。
 何となく、二口くんに見られたくなかったなぁと思った。私たちは恋人同士ではないけど。あの時の二口くんの言ったことを思い出してみても、付き合ってとか言われた記憶はない。
 二口くんがそんなことを言うか考えてみて、それもないかなぁって思っておかしくなった。

「なに、笑ってんの?」
「うん?」
「笑ってる場合じゃないし。あんな所で迫られてんじゃねぇよ」
「……迫られ、てないよ?」
「はぁ?馬鹿ですか?なまえさんってホント……あー、クソっ」

 変わったことと言えば、名前で呼んでくれる様になったこと。それから、それから。

「これ、巻いといてください」
「へ、タオルを?」
「ちゃーんと、二口って刺繍見える様にしとくんで」
「……?」
「ぶはっなまえさーん。タオル巻いてるの似合いますねぇ?」
「それ、誉め言葉じゃない……」
「はは、キスされるかと思った?」
「……っ、え?」
「顔赤いっすよ。かーわいいっ」

 時々、二口くんのからかい方の種類が変わってきてしまった。しまったと言うのは、私がそれにいつまでも慣れなくて困ってしまうからだ。
 これなら、まだ下ネタを繰り出されている方が良かったかもしれない。そういう時は反応しなくても問題なかったもの。
 今は、どうしていいか分からないままでいると、二口くんの機嫌がみるみる降下していいってしまう。今日もそう。
 黙ったままの私より先に、大股で歩き出してしまった。



 それでも体育館へ戻れば、二口くんの機嫌は戻った様に思える。淡々と部活をこなし、皆の前で話もして。すごく立派になったなぁ。二口くんだけでなく、二年生頼もしい。

「よし、今日はこれで解散」
「あざーっす」
「お疲れっす」
「お疲れ様で……」
「あ、なまえさんはちょっと待っててくださいね?」
「えっ、あ、あの?」
「予定表のここの話なんですけどー」
「待って、二口くん?」
「前言ってた場所と〜……」

 話し続ける二口くんの言葉が、全く頭に入ってこない。後ろから羽交い絞めにされて、大きな手が伸びてくる。耳元で聞こえる声と息遣いが、私の混乱に拍車をかけた。
 誰か助けて欲しい。そう思って皆を見つめるのに、全員が私から視線を外していく。最後の頼みの綱と青根くんを見たのに、赤い顔をして目を合わせてくれそうもない。

「二口くん、やめて?」
「今さら?」
「今さらって……」
「いやもう、全員見慣れたからスルーしてくれてんのに。本人がまだ慣れないとか往生際が悪くないですか?」

 言われてみれば、これが初めてではないことを思い出す。あの時から変わってしまった意地悪の質は、こんな所にも発揮されていて。
 二口くんのスキンシップが過剰なのだ。しかも、人目とか全く気にしてくれない。

「あぁ、舞ちゃーん……」
「はい、駄目ー。滑津は買収済みなんで」
「すみません、先輩。二口になまえ先輩とのことは口出さない様にってチョコで買収されちゃってまーす」
「私の命、チョコ以下?」
「命って大袈裟じゃないスか」
「耳元で喋っちゃ駄目!」
「えー、何でですかぁ?」

 楽しそうなのは二口だけで、私はちっとも楽しくない。他の後輩だって絶対に気まずいと思う。監督、注意した方がいいと思います。という気持ちで目線を向けたのに、ため息を吐かれただけで顔を背けられてしまった。
 私には味方がいなかったのかと、軽く絶望してしまう。でも、絶望しているだけじゃ何にもならないから。自分でどうにかしなくては。決戦は帰り道だと小さく決心した。

 決心しても緊張はするので、帰り道の足取りは重い。少し空いた距離に苛々したらしい二口くんが、私の腕を掴んで引き摺る様に歩く。
 顔が見えない今なら、睨んでもいいかと後頭部を睨んでみる。どういうつもりなんだろう、二口くんの真意が読めない。

「二口くん、ごめんね?」
「……何が?」
「私、また怒らせる様なことしたかな?」
「理由もなく謝る癖、直りませんね」
「でも、あの、私も悪いと思うけど。二口くんも、その、やめた方がいいと思う」
「はぁ?」

 大袈裟に返事をする二口くんが、ついに止まってしまった。その顔に不満ですと書いてあって、萎縮してしまいそうになる。スカートの端を掴んだ。
 駄目、ここで引いたら延々とこの感じが続く。一番の解決策は私が体育館に行かないことだと思うけれど、それは嫌だなって。我儘でごめんね。

「人前でああいうの。その、勘違いされると思うし」
「何を?勘違いって何のことですか?」
「えっと、付き合ってる、みたいな……」
「はー?勘違いじゃなく事実でしょ、それ」
「……え?」
「は?」

 私が首を傾けるのに合わせて、二口くんの眉間の皺が濃くなっていく。待って、待ってほしい。私たちって付き合ってはないよね?

「なまえさん、俺のこと好きでしょ?」
「は、ふぁい」
「俺もなまえさんのこと好きに決まってるって、言いましたよね?」
「言って、ました」
「……はぁ」

 小さいため息一つきりで、目元を手で覆ってしまった二口くんの表情は見えない。あれ、お互いに好きなら、付き合っていることになるのかな。
 私としては、どちらかが付き合ってくださいって言うのかと思っていたんだけど。漫画とかの読みすぎだったのかな。恥ずかしい。

「もし、付き合ってても。人前でああいうのは私、ちょっと」
「はぁ?俺だってアンタが簡単にちょっかいかけられないなら何もしねぇんだよ!」
「え、私のせい?」
「ぼーっとしてんなよ。なまえさん可愛いって一年にまで言われてっから」
「言われてないよ、お世辞だよソレ」
「本人いないのにお世辞とか馬鹿かっ」
「だから、それは。主将の彼女可愛いですねって言われたんだよ。二口くんが私のこと、その、大袈裟に扱うから!」
「あっ?」

 いつの間にか肩でぜいぜい息をして、お互いに大声になってしまった。それでも最後に言葉に詰まったのは二口くんで、私が彼に口喧嘩で勝つ日が来るなんて。
 今少し、感動している。

「あの、えっと。私たち、付き合ってるんだ、よね?」
「……それ以外に何だって言うんですか」
「じゃ、じゃあ。手をつないで帰りたい、です」
「手だけでいいの?なまえさーん」
「今顔を覗き込んじゃ駄目!」

 ニヤニヤと楽しそうでちょっと嬉しそうな二口くんが、私の手を取って歩き出す。鼻歌まで聞こえてきそうなくらい上機嫌に戻ってしまった彼に。
 やっぱり私も嬉しいと思うから。部活中にああいうことをするのはやめてって言うタイミングを逃してしまったんだ。
 あれ、これ。私の勝ちじゃないかもしれない。


end

20190214

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