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気の早いblessing


 私の気になる人は、とても潔くて格好良い。いつだってハキハキしていて、男子から男前って度々叫ばれていて、女子からは呆れられている。
 髪型にはかなり拘っているんだと思う。勉強は少し苦手で、課題のことを聞いてくる時なんかはちょっと弱り気味。
 それも可愛くて、隣の席になって良かったってつくづく思う。

 これだけ言ったらもう、白状しよう。私はきっと彼が好きだ。大好きだ。それなのに気になる、なんて言葉で誤魔化してしまうのは……そう。

「うーん」
「どうしたの、なまえ」
「身長、縮まないかなって」
「えー?160あるの羨ましいよ!いらないなら、私にちょーだい!」

 何人かの友達の声が綺麗にハミングする。このクラスには背の低い女の子が結構多くて、私はクラスで並んだら後ろの方。
 でも贅沢は言わないから、せめてあと5センチ。西谷くんより背が低ければ良かったなぁ、なんて。

「うー……」
「なんだ、みょうじ。猫背になってるぞ」
「西谷、くん」
「元気ないな、どうした?」

 にかっと口を開けて笑っている顔。ああ、この笑顔が眩しい。でも、貴方より背が高いのが嫌で悩んでいました、なんて言えない。
 私がぼーっとしている間に、他の女子が西谷くんを邪険に扱っていた。ぎゃいぎゃいと言い合いになる中、クラス中から注目されている気がする。



「皆、静かに……」
「うるっさい!ノヤ!デリカシーってもんはない訳?このチビ!」
「おま……!お前こそないだろう!ノヤっさんはでっけぇよ」

 何だか周りが騒がしくなっていくだけで、西谷くんと私は輪の中から弾き出されていた。西谷くんも笑っているだけで、チビと言われたことはあんまり気にしていないみたいだ。
 流石だなぁ。本当に、色んな意味で大きい。

「あの、何かごめんね?」
「あ?みょうじが謝ることねーよ。アイツらいっつもああだし」

 そう言われて思い出せば、あの二人はいつも言い合いして事が大きくなっている気がする。あんなの喧嘩の内に入らないのかも。

「仲良し、なんだね」
「なー、付き合っちゃえばいいのにな!」
「え!?」
「何でもかんでも絡みたいだけなんだから、みょうじも気にするなって!」

 豪快に笑う西谷くんに背中をポンと叩かれて、その手が静かで優しいことに気付く。身長なんか気にするなってことかな。
 隣に立てば、私の方が少しだけ高い身長。

「あの二人、そうなんだ……知らなかった」
「おう!俺も気付いたの最近だし」
「いいなぁ、羨ましい」
「……え!?」
「え?」

 思わず零れてしまった本音に、西谷くんが大袈裟に聞き返してこっちを見てくる。照れたように頭を掻き毟って、一体どうしたんだろう?

「え、みょうじ、もしかしてアイツ……」
「わぁ!違う、違う!羨ましいのは……」
「そうだよな!アイツなんかにみょうじみたいな美人は勿体ないよな!」

 拳を振り回した西谷くんと、目が合ったまま互いの時間が止まってしまった。あれ、今。彼は何て言った?

「……え?」
「うわ、ごめん。今のナシ!いや、ナシじゃない!」

 私の顔が熱くなるのと同じくらい、西谷くんの顔が真っ赤になっているのを見た。どう言っていいか分からず、ますます固まってしまう。
 そしたら何を思ったのか、西谷くんが大きく深呼吸を始めた。

「みょうじー!」
「はいいぃ!?」

 喧嘩している二人も止まってしまう位、教室中に響く大声。一瞬の静寂の後、西谷くんを見るといつものあの、大好きな顔で笑って。

「俺はお前、美人だと思う!だから姿勢も良くしとけ。猫背、勿体無い」
「……う、うん!」

 よし!と頷いた西谷くんが、手を伸ばして頭を撫でてくれた。泣きそうなのに嬉しいのは、きっと西谷くんだから。
 幸せに浸っていたいけど、西谷くんの一言で教室中が息を吹き返した。

「ノヤっさんんんー!」
「あ?何だよ?」
「教室で告るとは!何って漢だ!」
「……は?違っ!」
「皆っ!今日はカラオケ集合!祝え!」
「だから違……俺、部活!みょうじ!」
「「「おめでとー!」」」

 クラス中に伝染する祝福の輪の中、事態を正しく理解しているのは私だけだと気付いたけれど。西谷くんのヘルプも無視して、少しだけ浸らせてもらった。
 もう少しだけ。覚悟が決まったら、今度は私から告白する。その時は背筋を伸ばして告げるから、西谷くんも覚悟してね。



***end***

20131025

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