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troublesome fellow


I can’t follow you.の続き



 休憩時間中の体育館。扉を開けて段差を利用して座り込んで、ひっそりと息を吐き出す。誰にも見られていないと思っていたのに、静かに隣に腰かけたのは木葉くんだった。

「疲れた?」
「え、あ、違う!大丈夫、元気」
「体じゃなくて。色々?」

 私が腕を振り上げる動作をすると、木葉くんははっと息を吐きながら笑ってそう言う。さらに細められた目が楽しそうな色を孕んでいて。
 普段の様子から、何かを悟られているんだと分かった。

「木葉くんは、すごいね」
「いや、誰でも分かるし。分かってねーのは木兎くらいのもんじゃねぇの?」
「木兎……ね」
「は?なに、木兎絡みなの?てっきり赤葦のことかと思ったんだけど」

 屈んで顔を寄せてきた相手は少しだけ目を見開く。色々というのは単なる揶揄で、別にこれと気付かれていた訳じゃなかった。
 つくづく単純な自分が嫌になる。赤葦くんにも好きだとバレバレだったみたいだし、今だってバレー部の皆さんには私と赤葦くんが付き合い始めたことも知られていると思う。

 赤葦くんは私と木兎が付き合っていると勘違いしていたみたいだけど、その誤解は解けて晴れて付き合うことになった。ハズだった。
 それなのに赤葦くんは、どうも私と木兎が一緒に部活へ顔を出すと木兎への態度が辛辣になる。同じクラスだし、行く道一緒だし。たまに一緒に行ったとしても、そこに深い意味なんてある訳ないのに。
 木兎が必要以上に私に構いたがるのは、ずっと同じクラスという仲間意識みたいなものだと説明しても、あまり変化のない表情で「分かってますよ」と弾かれる。
 自分の主観も込みで経緯を木葉くんへ掻い摘むと、彼は人差し指を顎に沿わせて持て余しながら遠くを見て言った。

「赤葦って意外と……」
「ん?」
「いや、何も?モテる女は辛いねぇ」
「馬鹿にしてるでしょ?」
「でも木兎って難しいとこあるからなァ。それ知っても話に付き合ってくれるみょうじさんには心許してんだよ、多分。って悪い」
「ううん、平気」

 からかう様に言ってきた木葉くんの肘が私の腕に当たって、気にしないでと手で示した。木葉くんの言い方は木兎への愛情に溢れていて。
 木兎がこのバレー部で可愛がられている理由の一端を見た気がした。赤葦くんだって勿論その一員なわけだから、本当は木兎を尊敬していたりするだろう。
 そう思うと、私がバレー部に手伝いと称して顔を出すことを控えた方がいいのかな。でも赤葦くんの頑張っている姿を見られるし、少しでも長く一緒にいられる機会を作りたくて。
 付き合う前は考えられなかった我儘が、どんどん私を貪欲に変えていく。赤葦くんとは付き合って、木兎とはこれまで通り友達でいるって選択肢、成立しないかな。

「うおっ!ヤベー……」
「え、何?」
「木葉さん、コーチ呼んでますけど」
「あー、はいはい」

 近づいてくる気配なんて全くなかったのに、振り返ると赤葦くんがなんとも言えない表情で立っていた。額に光る汗を拭ってもいない。
 とりあえずタオルを差し出そうとすると、木葉くんがさっきまで座っていた位置に赤葦くんが陣取った。そして、掴まれたのはタオルではなく私の左手首で。

「わざとですか?」
「え、何が?」
「今度は木葉さんですか……」
「赤葦くん、何のこと?」

 黙ったまままっすぐに見られると、未だに竦んでしまって口がうまく回らない。赤葦くんの深い目に吸い込まれそうで、あの日壁に押し付けられたことを思い出すから。
 今は部活中で皆いるんだということを自分に言い聞かせる。それでもじっと見ているのは耐え難くて先に目を逸らしたら、赤葦くんが時間を巻き戻したみたいに言うんだ。

「大体、いつまで経っても俺にだけそっけないのはいつになったら止めるんですか?」
「それは……緊張しちゃって!赤葦くんがす、好きだから」
「俺もなまえさんが好きですよ」

 まだ慣れない私を見て、赤葦くんがさらに近づいてきて小声で「顔赤いですよ」なんて耳元で囁くから、顔を膝から上げることが出来ない。

「仕方ないからさっきのことは不問にします。でも」
「わ、」
「近過ぎるからぶつかったりするんですよ」

 そう言って持ち上げられたのは二の腕で、一瞬何のことを言っているのか分からなくて。恐らく不満を露わにした私に、赤葦くんはやっぱり怯んだりしなかった。
 そのまま、こっちを見つめたまま屈んで来る。どうしてだろうと考えている間に、口を寄せられて私の肘に唇が当たった。
 触れられたと思ったら、軽く吸われて。最後に離れる瞬間、赤い舌が覗くのにばかり目がいってしまう。

「っ!」
「あーーーーーっ!」

 にっと笑った赤葦くんは確信犯だ。こんなところで、こんなこと。驚いて何も言えないでいる私を動かしたのは、木兎の大声だった。

「おおお、お前等、何して……?」
「休憩時間ですからね、エネルギー摂取してます」
「なん、な、赤、」
「木兎、お前まだ赤葦とみょうじさんが付き合ってるの知らなかったの?」
「え?はぁ!?俺だけ?」
「アンタだけでしょ」
「マジかよ?おおおおい!もっと早く言えよー!」

 恥ずかしいことを叫ばれて、静かにしてよとか思ったけど言えない。それよりも、皆に一連の出来事をばっちり見られていたことの方が気になる。
 木葉くんの方を見ると、目が合った瞬間に顔の前で片手を上げて謝るポーズ。コーチにまで見られたことへのダメージを癒せないまま、そもそもの原因である赤葦くんに向き直った。

「赤葦くん、何で……」
「そこ。もうぶつからないでくださいね」

 さっきの勝ち誇った様な笑顔はもう消えていて、いつもの涼しげな表情をして。「タオル洗っておいてくださいね」みたいな調子で言う。
 そうしてようやく、さっき木葉くんとぶつかった事かと思うくらい、それは些細な事だったのに。赤葦くんのせいで忘れられないことに摩り替わってしまった。

「うぉい!そこ!俺を無視して二人の世界作るの禁止!」
「大体なんで真後ろにいるんですか、木兎さん」
「二人が楽しそうにしてたから俺も混ぜてもらおうと思ったんだよ!」
「邪魔です、流石に」
「みょうじ!赤葦説得して!」
「え、えっと……」
「誘惑するのやめてください。流されやすいんですから」

 赤葦くんの言ったことの意味を考えようとするけれど、肩を大きな手で掴まれて抱き寄せられてはそんな余裕は何処にもない。
 恐々上を見上げると口の端を上げる赤葦くんが見えて、私は黙り込むしかなかった。きっと赤葦くんは最初に木兎と付き合っていると誤解していたことをまだ根に持っているに違いない。
 マネージャー二人の黄色い声まで聞こえてきて、扉も開けっ放しの為その声が外にまで広がっていく。腕の中からもがいて脱出を試みたところで無駄だった。
 彼のことは好きだけど、こんな騒ぎを望んでいた訳じゃない。ごめん、木兎。冷たい女だと思われても、友情より彼氏というか、身の安全を優先させるね。

「ごめん、木兎。諦めて」
「んなっ!みょうじが俺に反抗期だとー!」
「自分のもんみたいに言うのやめてください」

 そう言うととりあえず開放してくれたから、間違った選択しないで良かったと思う。しばらくは赤葦くんを刺激せず、逆らわないようにしようと固く心に刻んだ。



***end***

20140613

リクエスト内容:I can’t follow you.の続編

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