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教室で吐露


「キスマーク残す男ってどう思う?」
「恋愛もののお話が好きなのかなって思う」

 昼休みの教室でするとは思えない話題でも、松川の涼しい顔と淡々とした抑揚の薄い声で言われるとどうだ。
 咎める人も、聞き耳を立ててくる人もいなくて。ただいつもと同じ騒がしさが私たちを周りから隠しているだけ。
 私の即答に松川は何を思ったのか、片眉を上げて頬杖をついていた手を机の上で組み直す。真っ直ぐ見返してきた目には、何の非難も感じられなかったけれど。
 可愛げのない女と思われたらどうしようと内心焦ってしまったのは、私の独りよがりなこの気持ちのせいかな。

「な、なに?」
「いや?じゃあ、女は?」
「それは物理的に大変そう……何か理由があって付けたのかなって思うかも」

 少し考えてからそう付け足すと、成る程ねぇと呟いた後に視線を左へ逸らす。回転を続ける脳は、彼が何を思い出したのか追及しろと指示してくる。
 それでも何処にあるか分からない乙女心が、まだ言ったり出来ないと一瞬でその命令を握り潰した。

「じゃあさ、本音は?」
「えっ?」
「客観的な意見や印象じゃなくて感想?」
「あー……」

 短い沈黙の間に、先を越されて投げられた質問に後悔が襲う。いくら気さくな友達ポジションをキープして長いとは言っても、本音を言ってしまうと幻滅だろうか。

「若いなぁって」
「は、何歳だお前」
「せぶんちー……」
「分かってるけどさ」

 呆れた様に返ってくる言葉とは裏腹に、松川の視線は酷く優しい。誰にだって紳士で優しい態度を崩さない男は、目線のやり方まで心得ている。
 私にはそれが不服で、この余裕染みた顔を崩してやりたい、とか思ったりもする。これは賭けだ。どっちの意味で印象に残るか分からないから。

「ん、所有印とか嫉妬とか、独占欲とかそんな感じ?もう気持ちがフレッシュだよね」
「そのフレッシュは何か卑猥だな」
「自分の気持ち優先というか。やっぱり若くない?」
「あー、まぁ。相手を慈しむ行為としてはちょっと違うか」

 愛撫に慈しみを求めているかどうかはともかく、松川と話しているととことん自分は馬鹿で言葉の配慮がないんだと知る。
 そしてそれを許してくれている相手に、逐一いとおしさや執着を感じてしまうのだ。

 そう考えると私がやっていることも、キスマークと大差はない。教室で堂々と、松川と一番仲良しな女子は私ですよ、と。
 マーキングの様なアピールを続けているのだから。

「で、実際の話したいことは?」
「流石みょうじ。お見通しだな」
「っ!松川が回りくどいだけ」

 誉められた訳でもないのに、それだけで熱を持ち始める体中が憎い。耳も頬も体温も、松川を理解していることが嬉しいと騒ぎ出す。

「部活中、飛んだり跳ねたりするもんだから、どうしたって見えるわけ。腹とか太股とか、際どいやつ」
「それはまた……」
「でさ、当然男だから尋問する訳じゃん」
「あー……」

 部室で行われているやり取りが、どんな風かは大体想像がつく。思春期真っ盛りな私たちなんて、男女別々の枠に放り込まれたら言っている事は同じ様なものだ。
 ただ、それを私に向けて話す松川の真意が。何を伝えようとしているのか少しでも探りたくて、何気なく聞いている振りをしながら神経を研ぎ澄ます。

「そしたらやっぱ思い出すよな。ソイツのこと」
「そうだね」
「だったら、部活中に見えるのも相手の計算づくかなって思ったら、ちょっと」
「ちょ、っと。何?」
「ん。執着心も独占欲も悪いもんじゃないかな、ってね」

 吐き出し終えた松川は、手の甲に顎を擦り付けて机の上で項垂れた。そこから上目遣いで見上げてくる目には、何を映しているんだろう。
 玉虫色の私たちの関係に、濁った色を混ぜる様な、染め替えるような黒。その印象が拭えずに、私は根負けして目を逸らした。

「それ位想われたい、って話?」
「いや?一方的に押し付けるのも効果あるって価値観を変えられた、って話」

 話の転がり方が予想出来なくて、松川を見返すハメになった。細められた目と同時に、尖っていた口がゆっくりと弧を描く。
 長いこと友達を演じてきたつもりだったのに、どうして。その獲物を見定める様な目を初めて向けられた気がして、体が固まってしまった。

「あー……そういう反応するんだ」
「松、か……」
「本当はさ、」
「え?」

 机の上から逃げそこなった左手を、松川の長い無骨な指が掴む。初めてちゃんと触れたそれなのに、松川らしいと暢気な感想が浮かんだ。
 松川の指で掴まれた手は、胸の手前まで掲げられる。ゆっくりと撫でられた左手薬指への仕草に、慈しみを感じる私は。
 都合が良すぎる解釈をし過ぎかもしれない。

「この指に噛み付いて歯形でもつけとくか、位にはずっと思ってたって言ったら、みょうじはどうする?」
「えっと……激しい人なんだなって」
「で?本音は?」
「こっちからお願いしたいくらいです、言わせないでよ」

 きっと真っ赤になっている私の気持ちなんて駄々漏れだろうから、言い切ってしまった。引かれたってもう知らない。
 松川は「お前も激しいな」なんて笑うけど、その頬に少しだけ赤みが増したから。私は教室だってことも忘れて、この机の距離が今すぐなくなっちゃえばいいのに、なんて思った。



***end***

20140508

リクエスト内容:同級生で両片思い

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