×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


I can’t follow you.


 同じクラスになって三年目、ついに二人だけの共通点になってしまった木兎とそのネタで盛り上がって仲良くなった。
 そして暇な時だけでもとお願いされたバレー部の手伝いの顔見せの時、私はこの時、大変失礼ながら本当の意味で初めて。
 木兎とずっと同じクラスで良かったなぁと思ったんだ。



 バレーシューズの音が響く体育館。私が体操服で手伝いに来た頃には、準備運動は既に始まっていて。正規のマネージャー二人に謝りつつ、作業へ合流した。

「ごめんね!ちょい遅れた!」
「いいよー、いつもありがとね」
「洗濯の後ドリンク頼んでいい?」
「うん。今日も大量だね、やるぞー!」

 背の高いサバサバ系美人と、大食い系おっとり美女。二人とも気さくだけど仕事ぶりは丁寧。それでも試合が近いこんな時期は、猫の手も借りたい位らしい。
 私がお手伝い出来る範囲でならやるよと言った時、いきなり抱きつかれたのには吃驚したけどね。

 洗濯を終えて指定の位置にあるドリンクボトルを交換して、タオルを回収していく。コート内では試合形式の練習が行われていて、派手な衝撃音と共に木兎の雄叫びが聞こえる。

「ヘイヘイへーイ!」
「はいはい、スゴーイ」
「流石だわー」

 絶好調の木兎の横でチームメイトが木兎に声をかけていて、なかなか温度差があって面白い。けれど私の視線は、たった一人に集中する。
 トスを上げたのに褒めもせず見向きもせず、早々に所定の位置に戻っていく赤葦くん。顔にも首筋にも玉の汗が光っていて、切れ長の目がネット越しにこっちを見た気がした。

「……っ!」
「お、みょうじ!見た?今の見たー?やっぱり俺最強ーっ!」
「休憩ですよ、木兎さん」

 私が思っていたままを赤葦くんが代弁してくれて、首だけ振って同意しておく。赤葦くんと今度こそ本当に目が合って、持っていたタオルを取り落としそうになった。
 どくどくと脈がうるさくなって、顔に熱が集まっていく感覚。時間にして僅か数秒のことが耐えられなくて、目を逸らして体育館から逃げ出した。

 赤葦くんに対してこうなってしまうのは、体育館で始めて会った時から自然現象と化している。あの日は、私にとっては価値観の崩壊の日と言ってもいい。
 一目惚れなんて現実にはないものと思っていた。それでも私は現に彼を見てからずっと、この不整脈と戦い続けている。

「……って、ください!」
「わぁ!?」
「スミマセン、止まってください」
「あ、赤葦くん?何で……」
「休憩時間なので。あの、今、少しいいですか?」

 赤葦くんの逞しい腕が私の腕を掴むと相対効果で細く見えた。そうしてやっとどうして腕をつかまれているのか疑問に思うと共に、気恥ずかしくて顔を背けたくなる。
 チラっと見えた赤葦くんの眉間の皺は、私がおかしな態度を取っている所為だったらどうしよう。

「うん。何か、話?」
「木兎さんと付き合ってるんですか?」

 突然のディープな質問に、瞬きするのも忘れてしまった。私と彼は部活で顔を合わせる位の接点しかなくて、学年も違う。
 喋る機会だってごく僅かで、プライベートな話はあまりしたことがない。勿論私としては、赤葦くんのことなら何だって知りたいと思うけど。

 そんなことを考えている間に、壁際まで追いやられていた。影が出来ているコンクリートはひんやりしているのに、私の背中がじわりと熱を上げる。
 見上げた先の赤葦くんの目が、僅かに歪んで。そのすぐ後に小さく笑ってくれたのに、ちっとも落ち着くことが出来ない。

「彼氏がいてもいいんで」
「へっ?」
「木兎さんには内緒でもいいです」
「え、だから赤葦く……」
「そういう目で見られたら、俺だって諦めきれないです。分かります?」

 疑問系だったにも関わらず、彼の発する抑揚からは私への同意を求めているようには感じられなかった。掴まれた腕に力が篭っていて、痛いと思うのに抜け出せない。

「みょうじさんが好きです」
「……今、何て言ったの?」
「木兎さんの彼女でも、それでもいいって思います。今も」

 乱暴に重ねられた唇なのに、甘く柔らかい。ついていけない展開に舞い上がっている私を置き去りに、薄く開いていた口内に赤葦くんの舌が捩じ込まれる。
 体が震えるのは、嬉しさからか怖さからか。誤解を解く暇も与えられないまま、頭まで彼で満たされていく。

「……ん、っ、ふ……」
「力抜いていいですよ」

 そんな風に諭されて、足がふらついて赤葦くんに体を預けてしまった。後頭部に回された反対の手が、私の髪の毛を混ぜながら耳へと辿る。
 赤いのも熱いのも知られてしまったから、今更隠しようもないけれど。指の腹で何度か耳を行き来した後、頬へと流れる指に。
 全神経が集中したみたいに、それだけしか感じていられなくなる。

「あ、か……っ、ん」
「耳弱いですね、可愛い」
「ち……っぁ、は、なし」
「聞きたくないです」

 荒く漏れる呼吸と一緒に言葉を絞り出してみたものの、赤葦くんは認めてくれそうになかった。ギリギリまで引っ込めた舌が赤葦くんのそれに呆気なく触れて、まるで別のものみたいに跳ね回る。
 でもこれって絶対良くないことだ。目は開けていられないから表情は分からないものの、赤葦くんの声が切なそうに聞こえた。
 きっと赤葦くんは、私が木兎の彼女だとか誤解しているから。体の力が抜けて心地よくて、ずっと浸っていたい空気から抜け出さなきゃ。

「私!赤葦くんが好きだよ!」
「知ってますよ」
「え……?っと、木兎はただの友達で、付き合ってないよ?」

 胸を押してもびくともしないので、失礼かと思ったけど赤葦くんの口を手で塞がせて貰った。腕の拘束はもう感じられなから。
 赤葦くんが好きだと告げた時は平然として受け答えしたくせに。木兎と付き合っていないと言えば、普段定位置からあまり動かない目が見開かれた。
 あ、驚いた顔の赤葦くんも、ちょっと可愛くて好きだな。

「今、何ていいました?」

 恥ずかしそうに頬を緩ませて笑ってそう言ってくれたから、赤葦くんは自分の誤解に気付いていると思うけれど。
 休憩時間いっぱい彼を独り占めさせて貰える権利の代わりに、私がこのバレー部を手伝うようになった経緯から言っちゃおうと決意した。



***end***

20140401

[*prev] [next#]
[page select]
TOP