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まぁるい三角


 毎日、お昼のこの時間になると聞こえてくる大合唱は、クラスの人間まで慣れてしまって聞き流す代物。

「蛍くん!」
「ツッキー!」
「「ご飯食べよー!」」

 一瞥くれただけでお弁当を取り出し、勝手にしろと態度で示す。するとなまえが前の席の椅子を借り、山口が隣の席の椅子を引いてきた。

「ツッキー!今日は唐揚げだよ!」
「わぁ、美味しそう。蛍くんは?」
「ツッキーは?」
「蛍くんは?」

 一人でも充分過ぎるのに、二人になるとうるささが増す。返事しないと永遠にこれが続くのではないかと思うと、溜息と一緒に言葉を置いた。

「うるさいよ、なまえ」
「聞こえてるんだ、良かったぁ」
「……っ!」

 この顔に弱い。僕はなまえが安心したように笑うと、顔を背けてしまう。眼鏡のフレームがじわりと滲む、向こう側の景色も。
 僕が面倒臭そうに返事したって、嬉しそうに笑ってくれる顔が、一番好き。絶対に言ったりしないけど。

「ツッキー!照れてる?」
「うるさいよ、山口」
「ごめん、ツッキー!」
「あはは、蛍くんは可愛いね」
「黙ってて、なまえ」
「ひどーい!」

 ぎゃあぎゃあと騒いでもお弁当を持ち寄って、三人で食べるのが日課。僕のヘッドフォンは首にかかっているだけの時が増えて、クラスでいる間は音楽を聴いている時間が少なくなった。



「なまえの頬にご飯粒ついてるけど」
「え?わぁ、どっち?」
「あはは、しょうがないなー」

 山口が躊躇いもなく頬につく白米を摘んで、それを自分の口へ運ぼうとした。それがどうしても許せなくて、ティッシュを押し付ける。

「ツッキー!ありが……痛っ!痛すぎ、ちょ、ツッキー!」
「うるさいよ、箸でつつかないだけ有難く思え」

 指は傷ついたりしたら大変だからね。これが最大の譲歩。それにしても、人の彼女に何勝手に触っているわけ?
 なまえもなまえだ。ちょっと顔を傾けて、受け入れちゃってさ。

「蛍くん、やきもち?」
「……馬鹿なの?」
「うわぁ!そっか、ごめんツッキー!」
「だから違うって言ってるデショ」

 声が逐一大きいんだけど。確信犯なの、山口。本当に勘弁して。
 只でさえクラスの人間には、なまえが間抜けな性格している所為で「月島が上手いこと騙して付き合っている」なんて言われているし。

「……違うんだ。そうだったら嬉しかったのになぁ」

 ほら、皆見た?騙されたのはなまえじゃなくて僕の方じゃない?こんな可愛い顔して上目遣いで見られたら、抵抗出来るものも出来なくない?
 僕はまだ、そこまで人間が出来てない。

「……可愛い」
「馬鹿じゃないの?山口」
「えー!ツッキー、流石にそれは酷……」
「なまえが可愛いのなんて、当たり前なんだけど」

 くいっと眼鏡を上げながら、顔を隠すように言ってみた。言い切ってやった。山口の顔とか嫌過ぎて見られない。
 でも、正面のなまえは泣きそうな顔をして笑うから。

「……蛍くん、大好き!」
「早く食べなよ」
(うわー!うわわぁ!)

 横の山口の考えていることが駄々漏れだったけど、それには気付かないふりをしておく。この場で茶化さないだけマシ。

「蛍くん、美味しいねぇ」
「それは良かったね」
「大好きな人たちとご飯食べるって、すごく贅沢だよね」

 砂糖を口に突っ込まれたかと錯覚しそうになる程甘いことを言い出すなまえなのに、僕も山口も口を開けて聞いている事しか出来なかった。
 だって、一蹴するにはあまりにも。なまえが本当にそう思ってくれているのが分かるから。

「なまえちゃん、俺の唐揚げあげる!」
「うるさい、山口」
「蛍くん、今日はうるさい言い過ぎだよ?山口くん、ありがとう!」

 ごめん、ツッキー!という声が聞こえる中でご飯を噛む。僕のことを呼んでくれる二人と一緒に食べるお弁当は、冷たくてもじんわりと温かいから。
 この騒がしさに埋もれているのも悪くないかな、なんて。僕らしくないことを思った。



***end***

20140325

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