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心地よい掌の上


 両手でスイカを提げながら、日向家にやってきたのはついさっきのこと。すっかりご無沙汰していたけど、お裾分けに行ってきてと言われておつかいに来た。
 チャイムを押せば、予想していたおばさんは出てこなくて。目の前には、少しだけ私の想像とは違う翔ちゃんが立っていた。

「あ、なまえちゃんだ!」
「翔……ちゃん?おばさんいる?」
「今、夏と買い物に行ってる!」

 買い物かぁ。すぐ帰ってくるかな?そう思って視線が私の全身を追いかける翔ちゃんを見る。同じこと、考えているのかな。

「コレ、スイカなんだけど。沢山送られてきて。良かったら食べてって」
「やったー!フロで冷やす!」

 こんな所は相変わらずだなぁ。元気いっぱいに飛び跳ねているのを見ると、中学の頃と変わっていなくて安心した。
 私の親と翔ちゃんのおばさんが仲良かったから、私も二人と自然と仲良くなった。ただ、私が高校に行ってからはあんまり会わなかったけど。

「なまえちゃん、上がって!お茶出す」
「え、いいの?」
「当たり前じゃん!外暑かっただろ?水分補給!」

 腕を引っ張られて玄関を進む。小さくて可愛い弟だと思っていたのは遠い昔のことで、私の手を包む手が大きくてドキリとした。
 背は、そんなに変わっていないのに。

 翔ちゃんの部屋、久しぶりだけどあんまり変わってない。バレーボール、小さい頃使っていたバット、乱雑に置かれた漫画の山。
 好きなものばかり散りばめられた、男の子の部屋だ。

「翔ちゃん、高校楽しい?」
「うん!バレー部に入ってさ、すっげぇ怖い顔の奴がセッターなんだけど、トスがすんげー上手くて……」

 中学の頃みたいに、バレーのことになるとキラキラした目で話し出す。ちっとも変わらない。私はこの眩しい顔を見るのが大好きだった。
 今も幸せな気分にさせてくれる。大学受験のこと、ちょっとくらい忘れちゃおうと思う位には。

「そんで、マネージャーがすっごい美人で、先輩たちがいつも騒いでて」
「ん?」
「そういやなまえちゃんと同い年なのに、清水先輩は大人っぽい……」
「へ、へぇ……」

 まさか、いきなり女の人の話題が出るとは思わなかった。そっか、翔ちゃんももう高校生だし、彼女がいたって変じゃないし。好きな、人とか。
 あれ、私。何でこんなに緊張してきちゃったんだろう。

「あ、でもなまえちゃんは可愛いよ!」
「あは、ありがとう。へー、でもマネージャーさんがいるのはいいね」
「うん!しかも二人!谷地さんは可愛いって山口が言ってたなぁ」

 そう言われると、私に可愛いって言ってくれたのは本当にお世辞なんだなーって思う。いや、まぁお世辞に決まっているけど!
 何か、ちょっと。体の底からドロドロって黒いものが噴出す気分。

「そっかぁ。青春だね!わ、私も。大学に行ったらカッコイイ人見つけようかな……」

 なんて、思ってもみないことを言ってみる。

「なんで?」
「へっ?」
「なまえちゃんにはおれがいるじゃん」

 そう言うと、翔ちゃんが射抜くような目でこっちを見てきてぞくぞくと寒気がした。吸い込まれそうな大きな目でじっと見つめられたら、言いたいことも言えない。

「好きな奴がいるのに他の人間を見る必要、ある?」
「え!?好……」
「違うの?」

 瞬きもしないまま首を傾けた翔ちゃん。うう、迫力があり過ぎて何も反論出来ない。私が翔ちゃんを好きだって、ばれていたのかな?

「翔ちゃん……私、」
「おれはずっとなまえちゃんが好きだ!中学の時から」

 二つも年下で、最近まで中学生だった相手に。そんな頃から好きだったなんて言えなかった。でも、翔ちゃんはそんなこと全然気にしてないみたいで。
 年上なのに。何かリードされっぱなしだ。

「な、何で今……」
「身長抜いたら言おうと思ってたのに、なまえちゃんになかなか会えなかったし。今日はちょうど良かった!」

 あっさりとした言い方に、私は面食らってしまった。身長って……いや、確かに私の背はもう伸びないと思うけど。
 頭まで筋肉で出来ていそうな考え。翔ちゃんらしいといえば、らしい。

「でも!座ったらまだ同じ位だし……」
「ん?ああ。大丈夫!」

 言うが早いか、翔ちゃんが覆いかぶさってきた。両手で頬を挟まれて、顔を上に向かされて。かぶり付かれるようにキスをした。

「……ん、ふ……っ」

 何度も角度を変えて、深くなる度に苦しくなる。強引に割って入られた舌が、私の口の中で暴れている。握り拳になっていた手を、縋る様に翔ちゃんの背中に回した。

 顔をあげると、力の抜けた私の体は翔ちゃんより低くなっていて。にっこりと笑う翔ちゃんが得意げに言うんだ。

「おれが上になったら気にならない!」

 聞きたいことは色々あるけど、再び降ってくる口付けを受け入れるのに夢中で。結局受験のモヤモヤとか全部、なくなってしまった。
 告白は先を越されちゃったから、付き合っては私から言ってみようかなぁなんて。もしかして、私は翔ちゃんに上手いこと転がされているのかもしれない。



***end***

20140116

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