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猛追のspecial day


 街角のクリスマスイルミネーションが目に染みる、連休中日の日曜日。彼氏いないもの同士で集まってカラオケしてご飯行こうよー!とか言っていたのに、世の中は目まぐるしく動き続けているらしい。
 正確には、私の友達が女子である事を放棄せず、水面下で素敵なクリスマスを迎える為に努力し続けていたって事だけど。

 カラオケまでは良かった。ところが狭い個室で携帯が震える度に、友人たちの表情がみるみる変わっていく。
 化粧室から揃って出てきた時には、化粧バッチリ!戦闘体制が整っていて。とてもじゃないけど、これから何食べる?なんて切り出す勇気は湧かなかった。

「はー……お腹空いたな」

 白い息と一緒に吐き出された色気のない本音は、寒空に吸い込まれて霞んでいく。駅へと収束していく人の流れに反する様に、自宅へと向かって歩き出した。
 お母さんに、晩御飯いらないから!と言って出てきた自分に激しく後悔しても時間は元には戻らない。気になる人がいても水の下で足掻こうともしていなかった私は、食事に誘おうにも連絡先すら知らない訳で。

「コンビニ行くかな……」
「みょうじ?」
「わっ!か、影山くん?」
「こんな時間に何……出かけてたのか」

 躊躇いもなく全身をさっと観察されて、体温が上昇して混乱をきたす。ただでさえ幸運な偶然に戦慄いているのに、いつも通りでいられるかな。
 その前に、どうして友達と一緒になって化粧直ししなかったんだろう、私の馬鹿!

「う、うん。カラオケ。影山くんは?」
「今日、部活の練習試合で。現地解散だから、走ってきた」

 練習試合と聞いて、カラオケだと正直に答えたのが恥ずかしく思えた。よく見ると影山くんはジャージを着ていて、何処から走ってきたのか想像も出来なかった。

「そっか、お疲れ様。もう帰るとこ?」
「ん、まあ。お前は?」
「私は……お腹空いちゃって。コンビニ行こうかなーって」

 あはっと誤魔化しても、情けなさは変わらなくて。ここで「お腹空かない?」なんて軽く聞けたなら、一人取り残される様な事態にはなっていない。
 いや、どうかな。相手は部活命の影山くんだし。クラスメイトってだけの繋がりしかない私じゃあ、「何でだよ」って一蹴されて終わりかもしれない。

「腹減ってるのか?」
「……へ?」
「だから!メシ!食いに行くかって聞いてんだよ」

 怒り気味に繰り出された言葉は、理解が追い付くとゆるゆると嬉しさを連れてくる。頭を大袈裟に振り抜いたら、影山くんはもう背を向けて歩き出していたけど、私はブーツで駆け足になるのも全然気にならなかった。



 歩いて行ける距離にあるファミレスを、私も影山くんも一つしか知らなくて。窓際の禁煙席に滑り込んだら、向かい合わせの距離に緊張して話題の一つも出てこない。

「みょうじ、決まったか?」
「うん、オムライス!」

 本当はメニューなんて禄に見ていないけど、影山くんがソワソワしているのは分かったから。それに、友達から初デートではパスタとかオムライスにした方がいいって聞いたから。
 デートじゃないだろってツッコミは、別にいらない。私が影山くんと二人でご飯を食べられる機会なんて、今日を逃したらもう訪れないかもしれないし。

 影山くんは鉄板リブステーキの和食セットを注文して、私の分のオムライスとドリンクバーを言い終えた。ところが、それで終わりと思っていたのは私だけで。

「それと食後にケーキを……あー、じゃあこの期間限定のやつ、二つ」
「え?」

 影山くんが言いそうにない単語、期間限定。私の勝手な想像を覆した彼を見つめていると、店員さんのオーダーを繰り返す言葉なんて右から左だ。
 私の不躾な視線を受けて、影山くんは口を尖らせて抗議した。あ、眉間の皺まで愛おしいとか、ちょっとヤバイ。舞い上がっているなぁ。

「……んだよ」
「影山くんがケーキ好きとか、意外で」
「別にすげー好きって訳じゃねーけど」
「え、じゃあ……」
「でも、誕生日には食うだろ?」

 誕生日。その意味するところを導くのは簡単だけど、頭は誰かに殴られたみたいに痺れ出す。だってそんなの、全然知らなくて。
 うっわ、教室でも散々横顔ばっかり眺めているくせに。本当、何していたんだろう。

「誕生日、だったの?今日?」
「あー……おう」
「何でもっと早く……奢る!」
「は?何言ってんだ。俺が勝手に注文したんだし、俺が出すのがスジってもんだろ」

 しつこいけど、こんなこともう二度とないかも。誕生日に影山くんと一緒にいられて、お祝い出来る。そんな幸運が運ばれてくるのを待っているだけでは、もう現世では巡ってこないよ。
 絶望的に後ろ向きになって自分を奮い立たせてみる。何か、爪痕くらい残したい!

「じゃあ、オムライスあげる!」
「あ?」
「あとね、カラオケの割引券……は、いらないよね」

 影山くんの少し見開いた瞳を見て、すごすごと萎縮していく。当たり前だ。私だって、取ってつけたみたいな思い付きでいらないものを押し付けられたくはない。

「いらねぇ」
「……お誕生日、おめでとう」
「おう、それは要る」
「あは!ケーキ、半分ずつしよう」
「……あ?」
「アーンってするから、口開けてね」
「は?」

 驚いたままの影山くんの元に、熱々の鉄板が運ばれてくる。それでも固まったままだったのでナイフとフォークを握らせて、自分は大きなスプーンを構えた。
 オムライス、半熟で美味しそう。

「誕生日を祝わせてくれて、ありがとう。影山くんのことが一つ分かって、すごく嬉しい」

 顔を見て言う勇気はなくて、いただきますと付け加えた。スプーンを飲み込む卵と流れ込むデミグラスソースに、ごくっと喉が鳴る。
 これだから、締まらないんだよね。

「それはこっちの台詞なんだよ」
「……あ、オムライス!」
「んめぇ」

 手を掴まれたと思ったら、スプーンは影山くんの口にダイブしていて。触れられた手首が浮かれて撥ねる。口を動かすけど言葉は出てこない。

「お前に祝って貰えるので、充分だ」

 顔を逸らしたまま、それでも伝えてくれた言葉。いつの間にか握られていたのは、手首でなく指先で。爪先から頭まで赤くなっていくのを自覚した。
 どうしよう、アーンなんて絶対出来ない。それでも図々しい私は、今からでも影山くんのクリスマスイヴの予定が空いてないかな、なんて頭の隅で考えた。



***end***

20131222

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