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敢えて言わない


 教室に着くと、黒板の日付のところがポッキーの絵に変わっていた。今日は11月11日で、ポッキー&プリッツの日らしい。
 見事なお菓子業界の戦略だと思う。

 昼休みになると、女子はどこから取り出したんだってくらい大量の箱を積み上げていた。こういうのって昨日の内に買うんだよね?
 ポッキーの日もクソもないじゃん。そんなこと言うと、面倒なことになるから口に出したりしないけどさ。

「貴方も私も!」
「……」
「うわぁ、国見ってば冷たい!」
「本当にそれで俺がノリよく続き言うと思った?」

 両手にポッキーを持ち、右側を俺に向けて差し出すみょうじ。シミュレーションでは俺が笑顔で受けとるとでも思っていたのか、割と本気で傷付いているからムカつく。
 何て雑な戦略だよ。

「今日はポッキー食べる日だよー」
「女子ってそういうの、本当好きだな」

 もて余した左の方を咥えて、こっちを見上げてくるのはやめて欲しい。口ばっかり見ちゃうじゃん。

「国見、甘いの好きでしょ?」
「塩キャラメルなら」
「こっち。塩キャラメル味だよ!」
「……マジ?」

 チョコにしたら色が薄いと思っていたけど、まさか塩キャラメル味とか。完全に予想外だ。みょうじが俺の好みを知っていたってことも、だけど。

「誰から聞いた?」
「何が?」
「……金田一?」

 相手が首を傾げるだけだから、イマイチ要領を得ない。金田一じゃ、ない?女子の情報収集力って怖えぇ。侮るなかれ。
 俺が要らないとも何とも言わなかったのを前向きに解釈したのか、みょうじが右手のものを再び差し向けてくる。
 くっそ。その笑顔、反則だろ。

「ハイ!貴方も私も?」
「……それ言わなきゃ駄目?」
「ポッキー!!」
「んむっ!」

 強引に押し付けてくるから、口を少し開けてやる。どっちかというと、ポッキーの掛け声よりあーんとかの方が良かった。
 こんな事思う俺は、11月11日に浮かれている女子より余程馬鹿らしい。



「美味しいでしょー?」
「まぁ」
「これ見た時、絶対国見が食べてくれると思って勝利確信したよー!」

 イエイ!とピースサインを見せてくるみょうじは、何に対して勝利宣言しているんだろうか。まさか、俺?冗談じゃない。

「柔らか……やっぱり塩キャラメルはそのままの方がいい」
「さっき美味しいって認めたじゃん!」

 机に投げ出された袋から、みょうじが不服そうに塩キャラメル味のものを一本取り出す。自分でも確かめてから意見を言おうとするのは、らしいと言えばらしい。

「ん!甘くて美味しいけど口に……」

 握っているポッキーを無理矢理引き寄せて、残りにがぶっと噛み付いた。勢い良すぎて手に唇が一瞬触れたけど、それ位許して貰おう。

「な……っ国、見?」
「貴方も私も?」
「……ポッキー?」
「ばーか!」
「なっ?国見!」

 腕を振り上げてくるなんて、なんて乱暴なヤツ。その手を正当防衛に訴えて掴むと、さっき触れたところを睨むように見る。
 みょうじは意味をやっと理解して、手に力がなくなった。これはもう、やっちゃっていいってことかな。

「今度は口に咥えたやつ、食べようか?」
「……っ!馬鹿はお前だぁ!」

 真っ赤になって言われても、楽しいだけで説得力なんてない。俺はニヤリと口の端が上がっていくのを分かっていながら、顔を元に戻そうとはしなかった。
 教室で騒ぎの中心になるのは、こんな日だけにしたいけど。



***end***

20131111

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