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答えあわせをしてあげる


「みょうじさんって、キスする時間抜けな声出しそうですよねー?」

 皆が着替え終わった後、部誌を早く書こうと焦っていた私に投げられた言葉。私が何も言えなくなってしまうと、茂庭くんが慌てて言ってくれた。

「二口!お前、何ちゅーこと……」
「うわ、黙るとか!俺が苛めたみたいじゃないですか?」

 ついでに顔が赤いのも指摘されて、余計に口が開かない。二口くんは単純に面白がっているだけなので、私の態度は彼を喜ばせてしまったかもしれない。

「いい加減にしろ!」
「鎌先さんには聞いてないんですけど?」
「お、まえ、なぁ!」
「わぁ、もう!やめよう。ごめん、ごめんね?」

 まだ赤い顔のまま二人に寄っていくと、「そういうの、流行んないですよ」と言われながら笑われた。完全に呆れられている。
 そういうのとは、多分、私がいちいちそういう質問に対して照れることだと思う。女子率が異常に少ない伊達工では、下ネタくらいなら教室内でも平気で聞こえてくる。
 二口くんからすれば、こんなのにいちいち反応している私は、「純情キャラとか超ウケるんですけどー」くらいに変な存在なのだ。

「茂庭くん!これ、渡しておくね。皆もお疲れ様!」

 鞄をつかんで駆け出して、乱暴に部室の扉を閉めた。雰囲気悪くしてしまって申し訳ないけど、その場にいるのは無理で。
 校門まで駆け抜けたところで、大きく息を吐く。まだ心臓がドキドキしていて、上手く酸素を取り込めない。苦しい。
 でも、こんなに苦しいのは二口くんだからだ。クラスの男子にからかわれたくらいなら、私だってきっと何か言い返したり出来る。



 一つ年下の生意気な後輩は、部内ではとても頼りになる鉄壁だ。歯に衣着せぬ口調だから誤解を招くこともあるけど、バレーが大好きで、三年生も大好き。
 ただ、その三年生の中に私は認めてはもらえないんだろう。

(マネージャーって言っても、こんなんじゃなぁ……)

 私は高校になってからマネージャーを始めた口で、きっかけもテレビでバレーを見て迫力があって近くで見たいと思ったから、なんていう単純な理由。
 運動神経がいい訳でもないし、力がある訳でもない。
 それでも、同級生は皆優しく、助けてもらうこともありながら何とかやってこられた。だけど。

「ちょっと先輩!先に帰らないでもらえます?」
「あ……二口くん?」
「いくら何でもこんな遅い時間に一人で帰るとか。危ないんですけど」

 追いかけてきてくれた二口くんに、申し訳なくなる。きっと笹谷くん辺りが、二口くんが追いかけなきゃならなくなる様に仕向けたんだ。

「ごめん」
「部室の空気、悪くなったんですけど」
「ご、ごめ……」
「謝ったらいいって思ってません?」
「ごめん……あ!」
「っ!だから!そうやって謝られたら、俺が謝れないでしょ!」

 あまりの大声に、次の瞬間、辺りの静けさを引き立たせた。私は瞬き一つ出来ないで、二口くんを見上げるしか出来ない。
 この顔を見る時は少しだけ首が痛い。それでも見続けていたい位には、私は彼が好きだ。

「からかわれた位で顔赤くなるの、やめてくれません?そういうの、どう見られてるかわかんない?」
「え、あ……ノリが悪……」
「違っげーよ!可愛いなぁ、そういう経験少ないんだって思われるじゃん!」

 肩で息をする二口くんが力説していることが、私にはピンと来ない。それなのに、彼から発せられる可愛いに絡め取られてしまう。

「一般論?」
「だから!みょうじさんを可愛いとか思うのは俺だけでいいんだってば!」

 私の勘違いだったらどうしよう。そんな安っちい自尊心も、一瞬で吹き飛んでしまった。言い終わった後の二口くんは、顔が真っ赤で。
 後輩だとか、部の仲間だとか、同じ学校の人間だとか。どんな関係と聞かれたらその辺をチョイスする。でも本当は、私の好きな人って言いたかった。

「は、何で泣いて!?」
「ごめ……だって嫌われてるかと、思っ……」

 その先は言葉にならない。いつもからかわれたり馬鹿にされたりするのが精々で。女とすら思われてないかと思っていた。
 それどころか、部のメンバーとして認めてもらえていないかも、とか思っていた。

「そんなこと、全然ないんですけど」
「だって私、手際とか遅いし皆に迷惑……」
「ああいうのは遅いって言わない、丁寧って言うんです!」

 目元を拭ってくれる二口くんが、しゃがみこんで視線を合わせてくれる。その仕草が可愛くて、嬉しい。心なしか、目付きも優しい気がする。

「いつも、意地悪だし」
「好きな子ほど苛めたい性質なんです。分かってるくせに!」

 なんだかムキになって色々なことを言ってくる二口くんだけど、どれも初耳なことばかりで。それでも頷いて聞いてしまうのは、聞きたいことがあるから。

「えっと、二口くんは、その……私」
「そうですよ!好きに決まってるじゃないですか。何なら今、答えを確かめてもいいですけど?」

 そういって傾いてきた顔がニヤリと笑っていて。逃げようと思えば出来たのに、私はそのまま目を閉じた。



***end***

20131101

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