「あの、大地さんん……っ!」
いかにも泣く寸前です!みたいな項垂れたなまえが俺の所にやってきたのは、部活停止中の試験が差し迫る時のことだった。
いつもは学年が違うから勉強もバラバラでしているし、受験の俺を気遣ってかなまえは俺に頼ってきたりしない。
そんな彼女が珍しく教科書を抱えたまま俺を頼ってきてくれたから、悪いとは思いつつ笑ってしまった。
「何だ、どうした?」
「バレー部の後輩さんに、勉強教えるって本当ですか?」
どこから聞きつけてきたんだろう?まさかへなちょこの奴がペラペラ喋ったんじゃないか。スガがそんなことなまえに言うとは思えないし。
ちらりとスガを横目で確認すると、なまえが教室に来てからずっとこっちを見ていたのか、俺じゃないとブンブン手を顔の前で振った。
まぁ、それは置いとくとしても。これって嫉妬の内だろうか。全く、俺の彼女は馬鹿で可愛いなぁ。
「ああ。補習あったら合宿行けないだろう?でも、あいつら同学年同士で頑張ってるみたいなんだ」
しみじみと頷きながら答えた。全部一人でやればいいのに、なんて言っていた影山がなぁ。人間、成長するもんだ。
「そうなんですか?」
「うん。だから俺はなまえを教えられるかな。何、数学?」
なまえは現国も英語も得意だけど、数学はちょっと苦手。暗記力はいいから、きっと解き方のパターンさえ覚えれば、何とかなる。
本当は理解させるのが一番だけど。
「はい!あ、でも。大地さんの負担になったら……嫌だし」
嬉しそうに返事をしたのに、次の瞬間にはしゅんとして眉毛を寄せる。影山や月島のその仕草は生意気にしか感じないのに、なまえがすると可愛い。
ああ、認めよう。俺の彼女は泣いた顔も怒った顔もどんな時も可愛い。
「はは、大丈夫だよ。なまえが解いてる横で俺も自分の勉強するから」
「ほ、本当にいいんですか?」
「おう。週末俺の家、来るか?」
出来るだけ何でもない風に聞こえるように、なまえの目を見ずに言い切った。警戒されたら元も子もないからな。
なまえは何度か瞬きした後、嬉しそうにお辞儀をして言った。
「大地さんが、いいなら」
「当たり前だろ」
座っていた椅子を少し引く。その言い方が違う誘いを受け入れたように感じたのは、俺がきっと悪い。なまえはそんなこと思ってないだろうし。
「宜しくお願いします!大地先生」
「……ふぉ!?お、おう」
「じゃあ、また放課後に!」
上機嫌で駆け出していくなまえの背中を見ながら、俺は椅子からずり落ちた。遠目にニヤニヤ見ていたスガが、「大地やらしい顔してるぞ」って言うもんだから、俺はクラス中の笑い者だよ、クソ。
あー、一瞬変なプレイを想像してしまった自分を殴りたい。なまえはあんなに真面目にお願いしてきたっていうのに。
それはそうと、早く週末来ないかな。
***end***
20131025