「ふぅー…」

息を長めに吐き出し、緊張してガチガチだった全身の力を抜く。あれこれ色々と考えてしまったけど、支障をきたすことなくなんとか無事に仕事を終える事ができた。仕事が無事に終わってホッと胸を撫で下ろす。

特別にキツイ仕事ではなかったけど、いつもよりも疲れた気がするのはきっと深く考えたからかもしれない。
早く帰ってゆっくり休もう。そう考え家に帰るため歩き出せば、道路に映る自分の影。顔を上げれば空には雲一つなく満月だけが輝いていて、辺りを淡く優しく照らしていた。


「……綺麗…」


その月があまりにも綺麗で思わず見とれてしまう。イルミさんのいる所からも同じように見えるといいな。そう思いながら月を眺めていると携帯の着信が鳴った。コートのポケットから携帯を取り出し確認する。




From:お母さん
sab:元気?

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ナナシちゃん、元気にしていますか?
風邪など体調を崩していませんか?
ナナシちゃんはすぐ1人で抱え込むので心配です。

そっちに引っ越してだいぶ経ちましたが、新しい友達はできましたか?


そうそう。今日、いつものを送ったので、受け取ってください。明日の午前中に届く予定です。

身体が1番大切だから、体調に気をつけて働いてね。
またには連絡ください。


ママより


-------END-------





「…もう…」


お母さんったらいつまでも子供扱いするんだから。
そう小さく文句を漏らして携帯を閉じた時だった。


背後に微かな殺気を感じて、体をひねり少し右によける。間髪入れずにヒュッと鋭く空気を裂く音が左耳の脇を通り、さっきまでいた所の地面に針が数本刺さった。針というよりが鋲という方が近いかもしれない。すぐさま刺さった鋲を凝で見れば、禍々しいほどのオーラ。十中八九念能力者。しかもかなりの使い手。もしこの鋲が刺さったら、とてもじゃないがただでは済まなかっただろう。

避けて崩れた体制整えつつ、鋲が飛んできたと思われる方向に目を向けるが誰もいない。だけど気配は感じる。確かにそこにいる。いつでも戦えるように身構え、気配を感じる方に向かって「誰ですか?」と尋ねれば、闇の中から若い男が現れた。
見た目は二十代後半。闇と同じ色の大きな瞳と背中まである長い髪。一切の感情が読み取る事ができないその顔は、一瞬人形かと思うほど綺麗だ。月に照らされ艶やかに光る髪を後ろに流しながら現れたその男の右手には、飛んできた鋲と同じものが握られていた。


「あの体制から避けるなんてやるね。完全に気が付いていないと思っていたのに。ちょっと驚いた。強いね。」
「ありがとうございます。」


お世辞の賞賛に淡々とお礼を述べると、「あぁ、そうそう」と思い出したように言葉を続けた。


「実は本物かどうかも確かめたかった部分もあるんだよね。『聖十字の黒蝶』さん?」



その言葉にびくりと身体が揺れる。
スッと目を細め殺気を男に向けるが、男は特に表情を変えることなくただ真っ直ぐに私を見つめていた。






ナナシ 20歳
職業










― 殺し屋 ―





夜の真ん中、月の下で暴かれた真実
(愛しきあの人に知られたくない本当の私)





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