「……っ!た…だいま…!」


仕事から帰宅し、玄関に脱ぎ捨てた靴もそろえずに一直線にパソコンに向かう。
急いでパソコンを開き、電源ボタンを押す。立ち上がるのを今か今かと待ちながら部屋の時計を見れば、もうすぐ日付をこす時間。


「イルミさんまだ起きているかな…」


時間通りになんて終わらない仕事だけど、今日はいつもよりもかなり遅くなってしまった。
もう寝てしまったかもしれないと半分諦めてメールを送ると、5分も経たずに返信が帰ってきた。まだ起きていたみたい。


「よかった…」





From:イルミさん
sab:ナナシお疲れ

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まだ起きてたよ。
今日は遅かったね。疲れた?



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イルミさんからのあたたかい気遣いのメールに、思わず口元が緩む。



「大丈夫です」


ありがとうございます、とお礼の返事を打ち送信ボタンをクリックする。



イルミさんとメールを交わして1週間が過ぎた。

初めてメールをもらった時はサクラ(業者から雇われて客集めのために使われる人たち)の人かと思ってビクビクしながら返信したけど、その後のメールのやり取りがびっくりするくらい丁寧で、すぐに違うと分かった。

お互いに不規則な仕事をしているため毎日ではないけれど、空いた時間に少しずつやり取りをして、今では些細な出来事をメールをするような仲にまでなった。

年も近いという事もあり、イルミさんとのメールはとても楽しく、今までの同じような毎日がまるで嘘みたい。


まるで白黒で一色だった世界が色がついたように、
私の日常はイルミさんという色で鮮やかに輝いていた。





From:イルミさん
sab:Re:ナナシお疲れ。

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今日仕事から帰ってきたら、いつの間にか弟が家出してた。反抗期かな。今が大事な時期なのに。



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「…大変ですね、」


今日のメールは跡継ぎの弟くんが家出をしてしまった事について。
丁度この年頃の子は親の決めた事をなんでも反抗したがるし、あまり深く関わりすぎても離しすぎてもいけない、なかなか難しい年頃だ。家族以外にも目を向ける時期でもあるので、何か他にやってみたい事ができたのかもしれない。
弟のいない私にはこれだ!っていう確実なアドバイスが言えないけれど、確か自分にもそんな頃があったな、メールを打ちながら朧気に思い出す。


イルミさんは1番上のお兄さんで、おじいさんとお父さんと一緒に家の仕事を手伝っている。弟さんがたくさんいて家の仕事を手伝いながら、弟くんたちが立派に家の仕事ができるように日々色々と教えているみたい。


イルミさんの気持ちがいつか、弟くんに伝わればいいなぁ…。


自分とは異なる環境や考えの人と話すと、また違う価値観や考え方に触れることができる。触れることによって、今までの自分とは違う視点で物事を見るようになってきた。
人と関わるのが苦手で、人とのコミュニケーションを避けてきた自分が本当にもったいないと、最近よく感じる。だけどイルミさんと出会わなければきっと、その事にすら気づかず毎日同じ日々を送っていたに違いない。



「一体どんな人なんだろう…」


メールを重ねるごとに、イルミさんの事をもっと知りたいと思う。メールの内容からして家族思いで、仕事もできる真面目な人なんだろうな…。

パソコンの前で1人妄想を繰り広げていると、イルミさんからメールの返信が来た。




From:イルミさん
sab:Re:ナナシお疲れ。

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俺の仕事?
うーん、暗殺屋かな。




-------END-------








…………ユーモアもある人みたい。




昨日よりも今日、今日よりも明日
(どんどんあなたが知りたくなる)





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