水面に泡沫 | ナノ


 空蝉に語る

死後100年近く経てば世の有り様は変われるだけ変わっていた。忍の里が各地で興り、それぞれ影と呼ばれる長が忍を育て、治めているという。
多く語られずともわかった。柱間さんの努力は実ったのだ。乱世を生きた身として、2度と見ることはないはずだった平和な世を見れて、それだけで蘇った甲斐があったと思う。
ペイン、もとい長門と小南による現世講座を、俄かには信じられず、しかしそれが現実なのだと夢見心地で聞いていた。


乱世に生きて死に、望んだ平和な世界に蘇ったものの、よりにもよってその平和を乱す組織にいるとは何て皮肉なのだろう。彼らのしていることを否定する気はないし、する権利もない。ただ、行く当てがないから、ここにいる。しかし、根本から彼らの色には染まれない。
自分が生きた時代でもそうだった。どの組織にも属さず、病人怪我人がいれば誰でも治療する。蘇ったところで、それは変わらない。
暁に属した以上、暁のメンバーと行動を共にするが、拍子抜けするほど自由だった。アジトを抜け出して散策しても、極端な話、暁と敵対する木の葉の忍を治療しても、何も言われない。勿論いい顔はされないが。
暁であろうとなかろうと、私には関係ない。私にとっては「治療を必要としているか否か」の二種類しかないのだ。
暁のメンバーにはさぞ疎まれているだろうと思っていたが、存外皆淡白だった。S級犯罪者集団と言うが、マダラという世界の問題児を身近に抱えていた者から見れば可愛いものだ。清々しいほど自己中の集まりで、ある意味わかりやすいから、付き合いやすい。あまり特定の人との関わりを持ってこなかった私にとっては、同じ集団というコミュニティが新鮮だった。

「何も言わないんだね」

私が敵を治療しても、と付け加える。ペインは一瞬言葉に詰まった後、小さく息を吐いた。
止まない雨を眺めながら、ペインの少し後ろに立ち、彼の言葉を待つ。今日は、小南はいないのだろうか。唯一の同性である彼女は、何となく側にいると安心する。

「……お前は何故自分が蘇ったと思う」
「何故って……蘇らせたのはあなたでしょう」
「何故自分が、と思わないのか」

それまで外の景色を眺めていたペインは、くるりとこちらに向き直ると相変わらず感情の読めない表情で私を見下ろした。
かつて私を蘇らせた長門は、私の医療忍術を利用するためだと言った。それが建前の発言であったことはすぐにわかった。しかし、私は深く追求しなかったし、彼もまた何も言わなかった。気にはなるが、話す気のない相手の口を割るのも面倒で、案外ここでの生活も悪いものではなかったから、なるようになると流れに身を任せていたのだ。
だから今、不意に蘇らせた事実について彼から話し始めたことに少なからず驚いた。話す気にでもなったのだろうか。

「蘇らせた理由、教えてくれるの?」
「ある男に、頼まれたからだ」

ある男、という抽象的な言葉なのに、それだけでどうしてわかってしまったんだろう。心臓が痛いほど脈打ち、言葉は声にならず、ひゅうと空気が漏れる。

「その男が言っていた。イオリは敵にはならないが味方にもなり得ないと」
「……そう、」
「あまり驚かないんだな」
「あらゆる可能性を考えた上で、最も考えうることだったから」

長門は「医療忍術で名を馳せたイオリを利用するため」と言っていた。その時は蘇った直後であまり深く考えなかったが、よく考えればおかしな話だ。
私の一族は代々医療に長け、それ故に独立して生きていた。敵対するうちはと千手の治療はするが、決して仲間にはならない。高度な医療忍術が認められて初めてその生き方ができるのだ。
確かにうちは一族と千手一族の間ではそれなりに知名度もあっただろう。しかし、そこまでなのだ。うちはと千手、それより広い交友関係は無いに等しい。となれば、私の存在のみならず、内面まで知っている人物となると殆ど限られる。

「私を利用するため、なんて言って一度も利用されたことないもの」

肩を竦めながら言えば、ペインは顔を顰め難しい顔をする。

「……正直なところ、お前を生き返らせろと言われたのはいいが、それ以上の指示はない。かと言って野放しにして木の葉なんかの味方になられても厄介だ」
「何を今更」

ふらふら彷徨い歩き、木の葉だかどこだかの忍の治療をしていることを知っているだろうに。それでも、彼の言わんとしていることも何となく、察した。

「今の所1番心配な患者は長門だから、患者を放ってどこかへ行ったりはしないよ」

患者と言うほどではないが、チャクラの使い過ぎで痩せ細る彼は、普通の病気や怪我よりも厄介だ。
そう言えばペインは拍子抜けしたような顔をした後、ほんの少し、気付いたのが奇跡なくらい微かに笑った。




(140811)

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