水面に泡沫 | ナノ


 乱世に揺蕩う

生まれて初めて、人を全力で殴った。
目標を定め、助走を付け、自分の持てるだけの、純粋な力を右の拳に込めた。肉にめり込む感覚は気持ちいいものではなかったし、すっきりするよりも意外と自身にも痛みが残り、それがまた苛立ちを助長させた。憎たらしい。目の前で殴られたままじっと見つめてくる男に苛立ち、再び拳を握りしめた。



世は第四次忍界大戦真っ只中だった。私を現世に蘇らせた長門も死に、いよいよもって私がこの世に留まる理由がなくなった。
だからと言って死ぬ理由もなく、時を超えてなお生きていた時代と変わらず目の前で繰り返される戦に、遣る瀬無さを感じていた。
当時と変わらずどこの集団にも属さない、否、属せない私は、あてもなくフラフラと現世を彷徨った。怪我人がいれば治療するが、深入りはしなかった。
当然のことながら、私と同じ時代を生きた人はなかなかいないのだ。ましてや、面識のある人間なんて。
だから、不意に感じた懐かしいチャクラに身体が震えた。頭で考えるより早く印を結び、さほど得意なわけでもない瞬身の術を使ってチャクラの元へと飛んだ。
歪む視界を超えた先に、遠くに見える見慣れた姿。術の名残で眩む視界でも、はっきりと見えた。



「なんでいるのよ…」

じんじんと痛む拳を握りしめ、膝をつくマダラを見下ろす。殴られた時こそ驚いた顔をしたマダラだったが、私が生きていることには驚いていない。かつて長門が言っていたように、私を生き返らせるように仕向けた張本人で間違いないようだった。現世でも一枚上手なマダラに腹が立つ。

「久しいな、イオリ」

睨みつけてるのもお構い無しに、マダラは立ち上がった。反射的に握り締めていた拳をマダラに放つと、今度はあっさりと受け止められた。それどころか掴まれた拳を引かれ、しっかりとマダラに抱きとめられる。

マダラに会いたいと、思わなかったわけではない。生きている間は隣にいるのが当たり前だったから、現世に来てからふとした時に物足りなさを感じていた。
しかし、マダラは死んだと聞いていたし、年齢を考えても生きているとは思わなかった。トビ、もといオビトは何か話そうか迷っている様子だったが、聞く気はあまりなかった。オビトとあまり深く関わりたくない、と言うのが本音だったのだ。

世は戦争真っ只中だ。敵の総大将に抱きしめられる私は、忍たちにはどう映ったのだろう。そんなことを考えながら、数十年ぶりにマダラの腕の中で静かに涙を流した。


(140503)

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