水面に泡沫 | ナノ


 現世に咲く

どうやら私は輪廻転生とやらで生き返ったらしかった。
らしい、というのは私自身輪廻転生されたという実感がないからである。寝て起きたら見知らぬ場所に見知らぬ人がいた。長い眠りから覚めたようにぼうっとする頭の私の認識は、その程度だった。

なぜ生き返ったのか?
かつて医療忍術で名を馳せた(らしい)私を利用するため 、かつ輪廻転生の実験台

これを聞いたときは私もそれなりに有名になったんだなぁとか、って言うかお前誰だよとか、死人は大人しく寝かせときなさいよとか、我ながら冴え渡る突っ込みで私を現世に呼び戻したという長門という青年を閉口させた。
意識が縛られることもなく、生前のチャクラや能力もそのままに本当に生き返っただけの私は、長門に感謝するべきが否か迷った挙げ句、とりあえず痩せ細って見るに耐えなかったので治療してあげた。ら、長門がリーダーをしている暁という組織の医者になることになった。行く宛もないし知り合いもいないであろうこの世だし、と二つ返事で了承したのは5年も前の話だった。





「あのね、悪いこと言わないからマダラなんて名乗るのやめた方がいいよ…?」

いやほんとに。マダラと名乗るには実力不足とか、かつての実力者に失礼だとかそう意味では決してない。目の前の仮面を被った男の正体は知らないが、かつてマダラ本人と関わっていた身として、心からの助言である。
マダラよりも先に死んだ私は、マダラの最期を知らない。聞くところによれば柱間さんとの闘いに敗れて死んだと言うが、あの生命力の塊のような男が、そう簡単に死ぬとは思えなかった。
自称マダラな仮面の男は、ある日気付いたら暁に参入していた。暁構成員が次々と亡くなる中で本性を現した男・トビは、あろうことか自分はマダラだと名乗り出した。
自分の死後、マダラに何があったかは知らないが、少なくとも目の前の仮面はマダラではない。纏う雰囲気が似ていないこともないが、何にせよ我こそはマダラと名乗るなんて、何の得があると言うのだろうか。

「……お前にうちはマダラの何がわかる?」

仮面越しに睨まれながら、私は面を食らった。何がわかるかだって?咄嗟にマダラの誕生日、好きな食べ物、正確な背格好、性格まで思い浮かんで、思わず顔を顰める。
一人で百面相する私に気を悪くしたのか、仮面の男はあからさまな殺気を向けてきた。
一度死んだ身だ、今更死ぬことに抵抗はない。知り合いもいない、忍の在り方すら変わってしまったこの世界では生きる目的もないのだ。未だ殺気を隠そうともしない男に、殺されても構わない。

「愛していたもの、あなたがマダラでないことくらいすぐわかるわ」

肩を竦めながら答えれば、仮面の男は存外驚いてくれたのか殺気は消え失せ、力が抜けたようだった。マダラと名乗るわりには何も知らないのかと多少の呆れを胸にしつつ、本人に言ったかも怪しい言葉を口にしてしまった自分に驚いた。

「では、お前がマダラの…?」

男の言葉には少し困った。私とマダラの関係を言葉にするには、妻や恋人といったものは相応しくない気がした。うちはの頭領が妻として子を成したわけでもなく、かと言って恋人なんて甘酸っぱい響きは似合わないほどあっさりとした関係だったように思う。答えあぐねていると、しかし男は気にした様子もなく、何かを考えているようだった。

「愛してた、かぁ」

当時はただ側にいるのが当たり前で、距離を置いて考えることなどなかった。掴もうと思えばすぐ届く距離にあったのに、届かない距離になってから気付くとは、なんて滑稽なのだろう。いっそ、目の前の男が本物のマダラだったら良かったのに。そう思う自分が可笑しくて、空を見上げた。


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