水面に泡沫 | ナノ


 冬暁に惑う

ごろごろごろ。布団にくるまって転がること早…一時間以上。多分。目が覚めてから起き上がることなく、自分の体温で暖まった温い空間に閉じ籠っていた。唯一外気に触れる顔が、今日も寒いと告げていた。あぁ嫌だ、布団から出たくない。今日は引きこもろうかな。でも客が来たらこの格好はまずい。あーうーと意味を成さない声を漏らし、誰もいないのをいいことにだらしなく転がる。二度寝しようにも、目だけはすっかり覚めてしまっていた。

「おい」
「今日は閉店でーすお休みでーす」
「……」

バサッと音を立てて布団から引き剥がされる。先程までの温い空間から一変、外気にさらされ鳥肌が立った。寒さに震える体を抱き締めて、布団を剥ぎ取ったであろう人物を目の端に捉え睨み付ける。

「布団返して」
「嫌だと言ったら」
「返せ。そして帰れ」

本当に迷惑な奴だ。朝っぱらから許可なく人の家に入る奴がどこにいるってんだ。ここか、そうか。
ジト目で睨む私を見下ろしながら、マダラは呆れたように溜め息をついた。溜め息をつきたいのはこっちの方だ。朝から睡眠の邪魔をされて布団剥ぎ取られて…あれ、これ私怒っていいんじゃないのかな。

「朝から何の用?」
「お前の間抜け面を見に来ただけだ」
「あぁそう、じゃあ顔も見れたことだしさっさと帰れ光の早さで帰れそしてそのまま果てろ」
「朝から口の減らない奴だな」
「えぇいうるさい、私は寝るんだ!布団返せ!」

なんだって朝からこいつの顔を見なくてはならないのだ。ここは私の家だ。そしてマダラは赤の他人だ。百歩譲って顔見知りだ。勝手に家に出入りする仲じゃない。何故こいつは我が物顔でうちに居座っているのだ。

「ちょっと、それ私のお気に入りのお茶なんだけど」

剥ぎ取った布団を私の頭上に下ろしたマダラは、部屋の戸棚を漁り始めた。手には先日客にもらったお高い緑茶の葉が入った筒。湯たんぽ代わりである小さな七輪に火遁で火をつけると、これまた我が家を漁って見つけたであろうヤカンを火にかけた。図々しくもお茶をするつもりである。家主の存在は無視か、こら。「まぁまぁだな」ってあんたそのお茶高いんだからね!

「いつまでその格好でいるつもりだ」
「着替えたくてもあんたがいるから着替えらんないのよ」

呑気に茶を啜りながら話すマダラに、奪還した布団に立てこもる私。端から見たらおかしな光景だろう。お茶を飲み窓の外へ目をやるマダラは、悔しいが絵になっていた。くそう、神様は理不尽だ。

「おい、腹が減った」
「あっそう」
「なにか作れ」
「家に帰れ」

何度目になるかわからない睨み合い。負けるのはいつも…………悔しいが私だった。写輪眼はずるい。
のそりと重い体を動かし、布団から這い出る。寝ている間に随分寝返りをうったのか、寝間着は乱れに乱れて帯がこんがらがっていた。はぁ、と溜め息を溢して足取り重く箪笥に向かう。

「見ないでよ」

後ろで茶を啜っているであろうマダラにそう言うも、返事はなかった。こんな女の裸に興味ないということか。特別スタイルに自信があるわけでもないが、なんとも言えない複雑な気分だ。…大きさは自慢なんだけど。朝から散々だなぁ、とどこか他人事のように思っていると、不意に人の臭いが鼻を掠めた。

「ほう、意外とあるんだな」
「!?」

知らぬ間に真後ろに来ていたマダラは、肩越しに私を見下ろしていた。こんな時ばかり忍の本領を発揮しないでいただきたい。って言うか意外って言うな。冷静に突っ込むものの、驚きと自覚してきた羞恥心で固まってしまった自分が情けない。ぴたりと真後ろに立つマダラの手が腹に、腰に回されて動けない。

「ちょっ…いや、」

あろうことかマダラは乱れた着物の間から手を入れると、私の胸を鷲掴みにした。ひんやりとした手が急に地肌に触れるものだから、身体が強張る。むにむにと感触を楽しむように触られると、なんか…

「く、くすぐったい…!」
「………」

私はあれだ、背中をつつーってなぞられるのとか苦手なタイプなんだ。くすぐったさに悶えていると、マダラは盛大な溜め息と共に私から離れた。

「何なのマダラ、何がしたいの?」
「……馬鹿かお前は」

ガッと勢いよく頭を鷲掴まれ、ギリギリと締め上げられた。一体何だと言うのだ。いい加減頭に来たので気付かれないように小さく印を結び、マダラを睨んだ。

「水遁、水鉄砲!」
「!!」

マダラの顔面めがけて勢いよく水を放つ。憎たらしいが流石うちはの頭領、寸でのところで避けられた。くそう。
しかし避けるときに緩んだ手から脱出することに成功した私は、後ろに下がりマダラとの距離をとった。警戒するように睨み付けていると、マダラは不意に窓に手をかけた。

「…また来る」

一言つぶやくように言葉を残し、マダラは私の答えを聞く前に窓の外へ消えていった。残された私は、奴の真意を図りかねて眉を寄せる。

「って言うかもう来んな」

いつもの台詞は、誰もいない朝の空へ響くこともなく消えていった。


(121028)

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