水面に泡沫 | ナノ


 山麓に根差す

私はうちはマダラが嫌いだ。
図々しい態度に身勝手な行動、いい加減縁を切りたい。何故天下のうちは一族の頭領様は私ごときに構うのだろうか、ここ最近の悩みはそれだった。何度拒んでもふらりと現れては治療しろだの飯を寄越せだの我が儘放題である。うちはさんちは頭領をしつけ直すことから始めた方がいいと思う。

「ですが、あなたのことを話す兄さんは、いつも穏やかな顔をしていますよ」
「うへぇ、あんまり聞きたくなかったかなぁそれ」

心底嫌そうな顔をする私に、イズナは苦笑した。私は苦い顔をしながらイズナに頼まれた薬草をごりごりと削る。薬草独特の苦い香りは、幼い頃から嗅いでいるせいかむしろ心地よい香りだった。


余談だが、私の家系は代々医術を専門とする家だった。うちはと千手のどちらにも属さず、怪我人病人は誰でも治療するのがモットーな我が家は、しかし今や私だけだった。戦乱は私から家族を奪ったのだ。残された私は両親の残した書物や貴重な薬品、医療忍術を守りながら、山の麓で細々と暮らしている。
それなりに有名だった私の一族は他の一族からも一目置かれていて、どこにも属さない代わりに治療や薬草の提供をして生活しているのだった。
閑話休題。



「はい、注文の解毒剤と風邪薬。あとこれはおまけの傷薬ね」
「いつもありがとうございます」

両手一杯の紙袋を抱え、イズナはふわりと笑った。本当にあのマダラの弟か疑うほど素直な彼は、私にとっては常連さんだった。薬や治療を求めて訪ねてくる彼は、いつも丁寧で兄のマダラとは正反対だった。年が近いこともあって、イズナが来るとつい長話をしてしまう。

「…あなたはずっとここに、一人でいるのですか?」

イズナと仲良くなるにつれ、イズナは私の身を心配してくれるようになった。それは純粋に嬉しくもあり、彼の優しさがこそばゆい。幾度となくされるこの質問は、案にうちはに来ないかと言う誘いなのだろう。私はいつも通り曖昧に笑い、首を横に振った。イズナは寂しそうに笑うと、紙袋を抱えて腰をあげた。

「また、何かあったら来てね」
「えぇ、ありがとうございます」
「あっ、マダラにはもう来んなって言っておいて」

苦々しく言えば、イズナは声をあげて笑う。「兄さんが誰かの言うことを聞くと思いますか?」そう笑い混じりに言われた言葉は、悲しいかな肯定できなかった。頭を抱える私に、イズナは今度は優しく笑いかけた。

「あなたが兄さんの妻になってくれたらと、僕は思っています」

嫌かもしれませんけど、と笑いながら言うイズナは、私がなにか反応する前に消えてしまった。


(121025)

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