水面に泡沫 | ナノ


 体温に溶ける

そりゃあ最初は格好いいなとか思いましたよ。忍の2大勢力の内の1つを若くして束ねる実力にあの容姿。ときめくなと言う方が難しいだろう。しかし第一印象は当てにならないとはよく言ったもので、奴に対しての私の評価は"嫌なやつ"だった。



「だから!なんで私のところに来るの!」
「たまたま近くを通ったからだ」

文句あるか。上から見下しながら言い放った言葉に、文句なら山ほどある、と返そうと口を開き、しかし閉じた。もうこのやり取りは何回目なんだろう。文句の代わりに息を吐き出すと、それを了承の意ととったマダラは私の目の前にどっしりと腰を下ろした。本当に図々しいなこいつ。今度はわざとらしく溜め息をついてみるも、聞こえていないのか気にしてないのか、見事な無反応。
諦めて救急箱の蓋をあけ、包帯やら消毒液やらを引っ張り出す。マダラはなにも言わずに、ただじっと私の行動を見ているようだった。なにかを言うのが面倒になった私は黙々と治療に使う道具を手元に集めていた。

「……なぜ医療忍術を使わない」

肩に消毒液をかけられ顔を歪めるマダラは、苦々しく言い放った。

「これくらいの怪我、チャクラの無駄だわ」

対するように苦々しく言い放てば、聞こえよがしに舌打ちが聞こえる。舌打ちしたいのはこっちだ。礼をされることはあっても舌打ちされる謂れはない。腹が立ったので包帯をこれでもかと言うくらいきつく巻いてやった。ぐっ、と小さく声を漏らすマダラに私は心の中でガッツポーズをとった。蹴りの1つや2つ入れたいくらいなのをこれだけで済ましたのだから、感謝されるべきだと思う。

「はい、治療は終わったからさっさと帰って」
「いいや、今日は泊まる」

考えるより早く、持っていた包帯の余りを投げつけていた。元より殺傷能力のないそれは、あっさりと避けられて床に転がる。

「…はぁ!?寝言は寝て言って!あなたを泊める部屋なんてうちにはありません!」
「お前の部屋でいい」
「いいわけあるかこのやろう」

何がいいのかさっぱり意味がわからない。あぁもう、なんでこいつはわざわざ私に絡みにくるんだ。一族の統率だけに執念を燃やしていればいいものを。

「ならばお前がうちはの里に来るか?」
「イズナくんになら会ってもいいけど、それ以外はごめんだわ」

うちはの良心だと認識しているマダラの弟、イズナは兄と違って常識を弁えている。マダラのように図々しく怪我したから治せとか言ってこないのである。必要があれば必ず丁寧に頼みに来るし、何より笑顔がかわいい。癒しだ。なぜ彼はうちは一族なのだろう。と言うか、なぜこのマダラの弟なのだろう。反面教師か、なるほど。一人で納得していると、ふっと体が床から浮いた。妙な浮遊感が気持ち悪い。

「ったぁ!何すんの離せ!」
「少しは黙っていろ」

マダラは私を肩に担いだまま無遠慮に部屋の奥へと歩を進めた。廊下を歩いて一番奥の部屋、つまり私の寝室へ何の躊躇いもなく入ると、まるで荷物のように私を布団の上に投げ出した。状況についていけずぽかんとしていると、マダラはこれまた何の躊躇いもなく布団に潜り込むと、呆けている私を布団に引きずり込んだ。

「…え?いやいやいや…おかしいでしょ何なのこの状況」
「うるさい黙れ寝るぞ」
「いや人んちで許可なく寝るなし」
「オレは疲れたんだ」
「あぁそうですか家帰って寝ろ」

確かに疲れた顔はしているが、だったらこんな狭い布団でなくて自宅で寝た方が休めるだろう。ぎゃいぎゃい騒ぐ私にイラッとしたのか写輪眼で睨まれた。思わず怯むとその隙に私を抱き込んで布団に潜り込んでしまった。写輪眼が厄介なのと、存外心地よい他人の体温に包まれて、脱出を諦めた私が眠りに落ちるまでそう時間はかからなかった。




翌朝目が覚めたときにもう一騒ぎしたのは、もはや必然である。


(121024)

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