水面に泡沫 | ナノ


 誘致に苦笑う

薬草を煎じた薬数種類を、受け取った袋以外に二袋余計に詰め込んだ。結構な量だが、使い始めたらすぐなくなるであろうし、袋を抱えて帰るのは普段から鍛えている大人の男だ。
瞬身の術もあるし、と勝手に用意した三袋を、予想通り彼は少しすまなそうに眉を寄せながらも、何も言わずに受け取ってくれた。

「いつもすまんな」
「柱間さんや扉間には、お世話になってるから」

きっと彼らが思っている以上に、私は彼ら兄弟に助けられている。
かつてどん底にいた私に、生きる希望を与えてくれたこと。今でもこうして気にかけ、けれど好きにさせてくれていること。
返し切れない程の恩を、しかし彼らはそんなこと、と一笑に付すのだから、本当に頭が上がらない。そんなこと、家族同然の仲なのだから、助けて当たり前だと、その言葉がまた、私を救う。

扉間を見送るために外へ出ると、まだ少し薄い水色の空に、深みを増した木々の緑が目に付いた。葉の隙間から射し込む木漏れ日が、ゆらゆらと揺れている。時折吹き込む風が、春の終わりと夏の始まりを告げていた。
薬類を詰め込んだ袋を抱えた扉間とたわいも無い立ち話をしながら、どこか違和感があった。口数の少ない扉間が妙に饒舌で、普段なら用が済み外まで出ればすぐに帰るのに、まるで話を引き延ばすかのように雑談に興じている。

「……扉間、何か言いたいことでもあるの?」

問い掛けると、扉間は一瞬言葉に詰まった後、ジッと私を見つめた。探るような視線に居心地の悪さを感じながらも、真っ直ぐ見つめ返す。
暫く無言で見合った後で、扉間は逡巡するように視線を逸らし、何かを言葉にしようとし躊躇っているのか、口を薄っすら開けたり閉じたりを繰り返していた。
けれど、意を決したように再度こちらを強く見つめると、大きく息を吸い込みながら口を開いた。

「千手に来い、イオリ」

さわさわと揺れる木々のざわめきが、消えてしまったように静かだった。凛とした扉間の声が鼓膜に響く。

千手に来いと、今まで何度も聞いてきた。
それは私の一族を利用するためで無く、純粋に私を心配しての言葉であることはわかっている。戦乱の世を1人独立して生きる女を、見捨てることができない程、千手の兄弟は優しかった。
何度も手を差し伸べて貰って、今私は1人で立っている。2人のお陰で立つことができたから、今度は自分の力で歩いて生きたい。
怖い程の優しさに、甘えてしまえば楽なのかもしれない。兄とは違う仏頂面の、不器用な手をとってしまえば。
今までと同じ言葉で、今までとは違う、熱を孕んだ瞳を直視できず、俯く。

目を閉じると思い浮かぶ、憎らしい姿。柱間さんと扉間とは正反対で、けれど2人とは別の方向から私を救ってくれた人。
ゆっくり目を開き、顔を上げて、首を横に振った。

「……うちはマダラか?」

悔しさか悲しさか、眉根を寄せ、吐き出すように問う扉間に、未だ答えを出し切れずにいる私は、ただ曖昧に笑うしかできなかった。


(270528)

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