水面に泡沫 | ナノ


 熱情に微睡む

※事後
直接的な描写はありません









鳥の囀りと肌の表面が冷えた感覚が、眠りの世界から目覚めさせた。ぼんやりとした頭で、本能だけで温もりを求めて身動ぎすると、心地よい温かさに包まれる。布団に包まるように温もりの元を手繰り寄せようとして、違和感を感じた。温かいけど、柔らかくない。

「……ん……?」
「目覚めたか」

そっと目を開け、目の前の肌色に数度瞬き。ぼんやりする頭ではそれが何か認識できず、ただ温もりを求めてもう一度目を閉じて、現実と夢の狭間で微睡む。
………………は?

「……なんだ、夢か」

うん、これは夢だ。何て悪夢だろう。早急に二度寝してもっと良い夢を見よう。そう思い、寝返りを打って壁の方に向き直る。何だか腰は痛いし腕が絡み付いて来てるのは気のせいだ。金縛り的なアレに違いない。寝てしまえばこちらのものだと、再度目を閉じた。

「何を考えているか想像は付くが、これは現実だ」

耳元にダイレクトに響く声で、一気に現実に引き戻された。恐る恐る肩越しに振り返ると、ゼロ距離に無駄に整った顔と、少し癖の付いた長い黒髪。最悪だ。反射的に起き上がろうと力を入れて、鈍い痛みと気怠さに腕を付いて上半身を僅かに上げた体勢で固まってしまう。痛みに耐え涙を堪えていると、そんな人の気も知らずマダラは横から顔を覗き込んでくる。

「痛む……だろうな。あまり無理して動くな」

すまん、と小さく漏らした彼らしからぬ控えめな謝罪に、身体を支える腕の力を緩める。
徐々に蘇る昨夜の情景に顔が熱いやら心臓が煩いやら、とにかく顔を見られまいと、起きた時と同じように向き合う姿勢で、マダラの広い胸板に頭を寄せた。そんな私の心情知ってか知らずか、包み込むように抱き寄せられ、髪に指を絡め、そっと梳く。普段の行いからはおよそ想像できない優しい手付きに、思わず息を飲んだ。

「マ…ダラ…?」
「夢みたいだな」
「夢であって欲しかったなぁみたいな」
「照れてるのか?昨夜はあんなに」
「うそ、ごめん恥ずかしいからやめてください」

比喩でなく本当に爆発するんじゃないかと思うくらい頭が沸いている。羞恥心で人は死ねる。本気でそう思った。消えてしまいたいと身を縮こませていると、背と頭に回る腕に力が籠った。どこか縋るようなその動作に、胸が突かれた。

今でこそ傲慢で野心家な面が強いが、根は決して悪い人ではないのだ。戦争に憂い、身内の死に悲しみ、安寧の世を夢見る、純粋な少年だった。
私は戦場に赴くことは滅多にないが、それでも、戦争で一族を失った者として、医術を持つ者として、終わらない戦乱の世に希望を見出せずにいる。常に先陣きって戦場に立つマダラの心情など、筆舌に尽くし難いだろう。
不器用なのだ。守りたいものが多過ぎて、力があるが故に1人で背負い込んで、頼られることに慣れて頼り方を忘れてしまった、不器用な人。愛する者を失う痛みや、何が正しいかとわからぬ混沌とした世界で、彼は歪んでしまった。それでも、今は敵対してしまった友と語った夢を忘れられないでいる。そして、現実と理想の狭間でもがいているのだろう。元より愛情に深く、愛に飢えている。一族という枠組みから離れた所で尚、それを求めているように思えた。
何故私が、と幾度も思った。しかしいくら考えた所で、誤魔化したり気の所為だと思い込むのが不可能なほど愛されてしまっていた。変わってしまった彼を受け入れられず、拒んでいたのに、変わらない部分に押し負けてしまった。同情心なのかもしれない。けれど、いつの間にか背丈も体格も随分逞しくなったと言うのに、縋るように私の背に回す腕は、幼子のようで、とても突き放すなんて事はできなかった。
それでも、押し負けて良かったのかもしれないと思うのは、紛れもなく本心であって、決して同情心だけの行為なわけではない証拠でもあった。

そろりと手を伸ばし、量の多い髪を掻き分ける。自分のそれとは違う、鍛えられた体に腕を回し、ぎゅうと抱きしめ返す。直に触れ合う人肌が心地良くて、とくとくと聴こえる心音にひどく安心した。あ、やばい、これは二度寝するパターン。

「イオリ……」
「んー……」

名を呼ばれるも、うとうとと微睡みながら言葉でなく音を漏らす。さらりと髪を梳く手が、子守唄のように眠りへ誘う。
完全に落ちかける直前、マダラが身体を起こし覆い被さってきた。不意に離れた温もりに身を震わせると、えらく熱っぽい目が合う。急に現実に引き戻されて目を瞬かせていると、戸惑いがちな、それでいて急くような声音が降ってきた。

「すまん、勃った」
「今までのトキメキ返せ」




甘いままで終わらないのが『水面に泡沫』シリーズです。
(150209)

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