水面に泡沫 | ナノ


 一束に休す

「なぁ」
「なんだい少年」
「少年って呼ぶな、うん」
「じゃあデイダラくん、どうしたの?」
「アンタ何歳なんだ?うん」

団子を貪る手がピタリと止まった。イタチくんこっち見んな。やらん。
何歳、と聞かれて固まったのは、決して年を聞かれることに不快感を覚えたとかではなく、本当に自分の年齢がわからないからだ。そもそも彼らには輪廻転生の話はしていない。

「女性に歳を尋ねるのは失礼ですよ」

固まった私を気遣うように、鬼鮫さんがデイダラくんを嗜める。流石紳士。しかしデイダラくんは不服そうに唇を尖らせた。鬼鮫さんにお礼を言って誤解を解き、記憶を遡る。

「うーん……20代前半…いや25くらい…?」
「何で自分の年齢把握してないんだよ!」
「えぇ…そんなこと言われてもなぁ」

冷静に考えれば早死にしたんだなぁ、なんて呑気に回想する。そう言えば何で死んだんだっけ?前世の記憶は鮮明なのに、何故か死に際のことは靄がかかったように曖昧で、思い出せない。
気になりはするが、もしかしたら思い出したくない記憶なのかもしれない。

「大体おいら、イオリの名前以外何も知らねーぞ、うん」
「何でそんなに私の個人情報気にするの?」
「べっ別に気にしてるわけじゃないぞ!うん!!」
「確かに、イオリはあまり自分のことを話しませんねぇ」

赤くなって否定するデイダラくんに、今度は鬼鮫さんも同意する。団子に熱い視線を注いでいたイタチくんも、団子への興味の三分の一くらいを私へ向けた。ううん、どうしようか。悩む私の脳裏に、ふと私を生き返らせた男がよぎる。下手なことを言っても、バレた時がややこしそうだ。

「自分のことって言っても、大して話すことないんだよねぇ……名前と医者ってことしか話すことないよ」
「話せない、と言うことですか?」
「あんまり覚えてないんだよねぇ」
「記憶喪失、か?」

生前のことは昨日のことのように覚えている。けれど、死ぬ直前のことはさっぱり思い出せない。そういう思いで「覚えてない」と発言したが、予想外に効いたようだった。イタチくんの記憶喪失、と言う言葉に、他の二人も戸惑ったようだ。
完全に予想外の出来事だったが、このチャンスは活かす他ない。

「記憶喪失って言っても部分的なとこだけどね。ご期待に添えるような情報なくてごめんね」
「いえ、こちらこそ不躾でしたね」
「わ、悪かったよ、うん…」

上手く誤魔化せたようだが、何だか逆に申し訳なくなってしまった。誤魔化したも何も、事実なのだけれど。
勝手に蘇らされた身としては、全て打ち明けても良いのだが、そうなるとマダラの話をしなくてはならないし、何と無く、イタチくんの前でするのは憚られた。現世でのマダラの評価はわからないが、とても良い物とは思い難い。
若干濁した部分はあるものの、この話は終わりにしよう、と団子を味わうことに意識をシフトチェンジした。イタチくんわかったから、団子分けるから。

「この団子は始めて食べるが、なかなか美味いな」
「でしょー!火の国の外れにあるんだけど、すごく美味しかったからお持ち帰りしちゃった」
「あんたら本当に団子好きだな」

とてもS級犯罪者の集まりとは思えない。ここへ来て大分経つが、ここ最近は大きな仕事もなく随分平和になった。勿論、いつ何が起きてもおかしくないのだが。
それでも、生前では考えられない賑やかさに幸福感さえ感じている自分に驚く。
今度はイタチくんたちの分も、ちゃんと買ってこよう。自然と緩む頬を隠す為に、団子をもうひとつ頬張った。







なんだかイタチとデイダラが仲良いみたいになってしまった

(150122)

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