恋に上下の隔てなし | ナノ



Hyperion

てきおうりょく

「あっリオ!」
「クダリさん。お久しぶりです」

数週間ぶりにギアステーションに訪れたら、ダブルトレインのホームから白い何か…もといサブウェイマスターのクダリさんがこちらめがけてタックルをかましてきた。避けるのも面倒で、図体だけは大人なクダリさんを受け止める。後ろによろける私をカイリューが支えてくれた。
ありがとうカイリュー、やっぱりあなたは私の一番のパートナーだよ。

「リオ!どうして来てくれなかったの?ぼく ずっと待ってた!」
「カントーの実家に帰ってました。と言いますか、私行く前にしばらく来れませんって言いましたよね?」
「3日くらいかと思った」

イッシュからカントーに行って3日で帰って来られるか!そう叫びたかったが、多分、この人に何を言っても無駄なだけだろう。ぎゅうぎゅうとしがみついてくるクダリさんの頭を撫でながら、いつの間にかすっかり扱いも心得てしまった自分に涙した。ここにはバトルをしに来ているだけ。そう思っていた時期が私にもありました。

「あ」
「?…いたい!」

私が近づいてくる黒い人に気が付いて声を出したのと、クダリさんの頭上にそれはそれは痛そうなチョップが降ってきたのはほぼ同時のことだた。べりっと引き剥がされるクダリさん。我が身を支配していた圧迫感がなくなり、ホッと一息つく。目の前からは黒い人、もといノボリさんのお説教が聞こえてくる。

「クダリ!あれほどリオ様にご迷惑をおかけするなと申したでしょう!」
「うう…だってリオと会うの、久しぶり」
「久しぶりだからこそ、です!」

見た目はほとんど変わらない一人が説教をし、もう一人がしゅんと正座している姿は傍から見ているととてもシュールだ。しかも場所もギアステーションのど真ん中。すごい光景だなぁ、と他人事のように傍観している内に、ノボリさんのお説教タイムは終わった。

「お久しぶりです、ノボリさん」
「お久しぶりです、リオ様。さっそくクダリが迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえいえ、なんかもう慣れましたし、久々だからこそ懐かしくすら感じました」

先程のクダリさんとの絡みとは打って変わり、和やかに挨拶を交わす。うん、やはり大人なノボリさんの方が心穏やかに接せられて落ち着く。

「久方ぶりのご実家はいかがでしたか?」
「んー相変わらず自由奔放な家でしたよ」
「ねえねえリオ!リニア乗った?」
「いえ、基本そらをとぶ移動ですから」

えーと口をとがらせるクダリさん。何とノボリさんまで心なしか残念そうな顔をするものだから、何だか悪いことをしていないハズなのに妙な罪悪感に苛まれた。何かないかとカバンに手を突っ込み、指先に当たった感触で、閃いた。

「え、と…これ、差し上げます」

指先に当たったカード上のものをカバンから取り出すと、そのまま2人の前に差し出した。それが何だかわからない2人は首をかしげながらカードをじっと見つめ、私の言葉を待つ。動作までそっくりな2人に小さく笑いながら、リニアの定期券ですと伝えた。
すると2人はバッという効果音まで付きそうな勢いで顔を上げた。突然すぎたのと、良く似た顔が2つ目の前に現れ、思わず後ずさりをする。2人とも基本的に表情自体は変わらないため、じわりじわりと近づいてくる顔は果たして怒っているのか何なのか、さっぱり皆目見当もつかなかった。

「や、やっぱりこんなのじゃだめですよね!ごめんなさ、」

さい、と言い切る前にがっと手を掴まれ、内心ヒィと悲鳴を上げる。
しかしそんな私の心の内とは正反対に、ノボリさんとクダリさんはそれぞれ私の右手と左手をぎゅっと掴むと目をきらきらと輝かせ始めたではないか。はて、と首をかしげる私に、2人は手を掴む力を強めた。痛いです、2人とも。

「ありがとうございます、リオ様!」
「ありがとう、リオ!」
「はぁ…」

どうやら喜んでいたらしい。ううむ、わかりづらい。2人は片手ずつ私の手を掴んだまま、もう一方の手で持ったリニアの定期券を見つめ、嬉しそうに何かを語っている。電車のことらしいが、そういった類にまるで興味のない私にはただひらすら早く解放してくれないかな、とそっくりな2人を見つめることしかできなかった。
いつの間にかすっかり慣れてしまった様々なことに、小さな幸せを感じられる私はとんでもなく幸せ者なのかもしれない。








ノボリさんはおかんでも電車関連になるとクダリと一緒にはしゃぐといい。
(110223)


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