恋に上下の隔てなし | ナノ



Hyperion



「きみ、すっごーく強いね!ぼく久しぶりに負けちゃった!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねながらのたまうクダリさん。よくこの揺れる車内で飛び跳ねられるな、と思う。
シングルトレインの黒いサブウェイマスター、ノボリさんも掴みどころのない不思議な人だったが、ダブルトレインの白いサブウェイマスター、クダリさんも今まで会ったことのない部類の人だった。まあ、戦闘不能になったパートナー達をボールに戻し、頑張ったねと労わりの言葉をかけているのを見る限り、ノボリさん同様悪い人でないことはわかった。

「きみのポケモンたち、すっごく生き生きしてる!リオと一緒にいられるの、嬉しそう!」
「ありがとうございま、す」

回復したモンスターボールの中をじっと見るクダリさんは、見た目こそノボリさんにそっくりなのに言動はえらく子供っぽかった。ぐいぐい迫ってくるクダリさんにたじたじになりながら、とりあえず席に座ることにした。
当然のように隣に座ってくるクダリさんは「ノボリの言う通りだった!」と至極嬉しそうに語りだす。はぁ、と気の抜けた返事をする私を余所に、クダリさんは色々な話をし始めた。ノボリさんとマルチトレインで共闘すること、デンチュラたちとの出会い、最近21戦目まで来る挑戦者が少ないこと。最初はあまり真面目に聞いていなかったが、バトルの話となると話が合う所が多く、ライモンシティに着くころにはすっかり意気投合して話すまでになっていた。


「リオ!ぼく待ってるから、またいつでも来てね!」
「はい、またお願いしますね」

ライモンシティに着いて私の手をぎゅっと握りちぎれんばかりの勢いで上下に振った後、ようやく私はクダリさんから解放された。うむ、苦手なタイプかと思ったが、案外そんなこともなかった。そんなことを考えながら、ギアステーションを抜けて、もう日も暮れたライモンシティを歩いた。冬の澄んだ空気を吸い込み、ゆっくりと吐く。白い息が街ゆく人々の間に吸い込まれるように現れては消える。

「あっリオー!」
「あれ、シロナさん?」

声のする方を見れば、シロナさんが手を振りながらこちらに向かってくる。何でこんな所に。そんな私の疑問を余所に、シロナさんはにこにこと笑っていた。

「早速バトルサブウェイに行ったみたいね。どうだった?」
「すごく楽しいです!フロンティアよりシンプルでわかりやすいですね」
「ふふ、リオなら絶対気に入ると思ってたわ」

シロナさんはいつも私のバトル好きを心の底から理解してくれる数少ない人だった。それはシロナさん自身もバトルが好きなことが大きいが、この人はいつでもありのままその人個人を受け入れてくれる。『チャンピオンと挑戦者』ではない立場でも親しくできるのだから、本当にすごいと思う。

「サブウェイマスター、なかなか手ごわいでしょう?」
「そうですね、まだスーパートレインに乗ってないんですけど、やっぱり他のトレーナーとは違います」

黒と白のサブウェイマスター2人が脳裏をよぎる。正反対な性格で、でも掴みどころのない所は一緒で。

「うん、やっと新しい目標が見つかったって感じです」
「そうね、今のリオは私と初めて会った時と同じ良い目をしてる」

くすりと悪戯っぽく笑うシロナさん。言わんとしていることに、苦笑で返した。言葉にしていないものの、私の様子から意味を汲み取ったシロナさんは満足したように笑いながら、ボールからウォーグルを出した。

「帰るんですか?」
「えぇ、私もそろそろシンオウに帰らないと。チャンピオンの仕事もあるしね」
「色々ありがとうございました。またバトル、しましょうね」
「楽しみにしてるわ。リオも、頑張ってね」

相変わらず美しい笑みを浮かべながら、シロナさんはもう群青色に色を変えつつある空へと吸い込まれていった。
私はシロナさんが見えなくなるまで空を見上げていた。ありがとう、と誰にも聞こえないくらい小さな声で呟き、家路を急ぐ人々の中に入ると、宿泊先のポケモンセンターを目指して歩きだした。




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地下鉄シリーズの連載である『Hyperion』は一応これで終わりとなります。

地下鉄話なのにシロナさんで始まりシロナさんで終わる謎。

この出会いを前提にした上で、これから短編として同設定で増えていきます。

ここまで呼んでくださり、本当にありがとうございました!

(110216)


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