恋に上下の隔てなし | ナノ



Hyperion



「あっノボリさ、…ん?」

ギアステーションの人混みの先に、昨日出会ったサブウェイマスターのノボリの顔が見えた。そう遠くもない距離なので挨拶をしようと手を上げ呼ぼうとした時、何かが違うことに気がついた。昨日会ったノボリは、黒を基調としたコートと制帽をかぶっていた。しかし、今見えているノボリらしき人物は、全体的に白い。それに何より違うのが、昨日見たノボリは口がヘの字を描き表情が全くと言っていいほど変わらなかったのだが、白い人物は口端を上げていた。
人違い?いやいや、それにしては似すぎている。世の中には似ている人が3人はいると言うが、こんな短期間で、しかも同じ場所で会うだろか。浮いては消え浮いては否定し、ともやもや思考を巡らすリオは、思考対象である白い人物が近づいてくることに気がつかなかった。

「きみ、だれ?」
「!」

気が付けば視界が真っ白に染まっていた。不意に落ちてきた影の正体と声の主を見るべく顔を上げれば、ノボリのようでノボリではない別の誰かが目の前に立っていた。近くで見ればますますそっくりで、でもやはりどこか違って。

「あっもしかして、きみ、リオ?」
「えっはい、そうですけど…」

混乱するリオとは正反対に、白い人物は何かに納得して嬉しそうに瞳を輝かせた。その表情が昨日見たノボリにそっくりで、ますますわけがわからなくなる。

「ぼく クダリ!このバトルサブウェイでサブウェイマスターをやってる!」
「クダ、リさん?」

白い人物改めクダリ。やはりノボリとは別人だった。双子だろうか。先程よりいくらか落ち着いてきたリオは、失礼でない程度にクダリを見た。
見れば見るほどそっくりで、でも細かい部分が違う。2人で並んだら服で判断するしかないのではないかと思うほどに似ていた。
まじまじと観察するリオを気にも留めず、クダリは嬉しそうにリオを見つめた。ふとクダリの視線に気がついたリオが顔を上げると、にっこりと言うよりはにんまりと言った方が近い表情を浮かべたクダリと目が合った。

「リオのこと、昨日ノボリに聞いた!きみ、すっごく強いんでしょ?」
「そこそこ?ですかね」
「うそ!ノボリがすっごく楽しそうにきみのこと話してた!」

だから、強い!そう力強く主張するクダリに、リオは何だかまたクセの強い人が出て来たなと頭を抱える。旅の醍醐味でもあるが、出会う人のほとんどがクセのある人ばかりだ。それがまた面白くもあるが、それゆえに厄介事に巻き込まれることも多々あるのだから恐ろしい。

「リオ!せっかくここまで来たんだからダブルトレインに乗って、ぼくとバトルしよ!」
「ダブルトレイン?…ってダブルバトルってことですか?」
「そう!ぼく、きみとバトルしたい!」

目の前のクダリと言う男は見かけこそノボリそっくりで立派な大人なのに、なぜかカタコトで喋る。話していることも飛び飛びでわかりづらいが、どうやら会話の流れ的にクダリはダブルトレインでサブウェイマスターをしているらしい。そして、ノボリが強いと話していたリオと、ポケモンバトルがしたいらしかった。元々バトルをしに訪れたリオにとって、この誘いを断る理由などありもしない。

「ええ、もちろん!そのために来ましたから」
「やった!じゃあぼく、21両目で待ってる!」

約束だよ!と自分の小指とリオの小指を絡めると、クダリは手を振りながら上機嫌でダブルトレインのホームへと駆けていった。
嵐のような人。そんな印象だった。突然現れて、突然去っていく。ノボリ同様、掴みどころのない所は風にも似ている。

「でも、嫌いじゃないな」

あんなにハッキリと、それも楽しそうにバトルを申し込まれたのはいつぶりだろう。不思議な高揚感を胸に抱き、リオもまたクダリの向かったホームへと向かった。


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(110209)


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