恋に上下の隔てなし | ナノ



Hyperion

あまいかおり


「リオって おいしそう」

机を挟んで真向かいに座る全体的に白い人が突拍子もなく呟いて、思わず飲んでいた紅茶を噴き出す所だった。かろうじて醜態を晒すことは免れたが、液体が気管に入りごほごほと咽返す。大丈夫?だなんて問いかけてくる声に、あなたのせいでしょうにと返したかったが、咽て言葉が出ない。背中をさするクダリさんの手もあって、落ち着くのを待つ。水をゆっくり飲み下し、ようやっと落ち着くと、クダリさんはホッとしたように笑った。ああもう、怒りの言葉の1つや2つ投げたかったのに、これでは何も言えなくなってしまう。

「…どうしたんですか急に」
「ううん、前から思ってたんだけどね、リオっておいしそうだなって!」
「私、食べ物じゃないです!」

きらきらと目を輝かせて言うクダリさんに頭が痛くなる。この人が突拍子もないことを言うのはいつものことだし、意味がわからないことを言うのもいつものことだ。しかし、「おいしそう」などと捕食対象に見られていたなんて、今までの信頼関係その他諸々が壊れかねない。一方的にだが。あからさまに嫌な顔をした私に、クダリさんは可愛らしく小首を傾げる。言葉が足りないと察したのか、クダリさんはぴん、と人差し指を立てて、心持ち真剣な表情で私を見た。

「リオ いつも良いにおいする」

だからおいしそう!そう言って笑うクダリさんは可愛いのだが、言われた本人としては複雑である。

「良いにおいって…シャンプーとかですかね」
「んー甘い香り!」

自分だと自分のにおいがよくわからない。顔にかかる髪を一房すくい鼻の前にもってきても、いまいちこれといった香りは感じない。首をひねっていると、クダリさんがすんすんと鼻を鳴らしながら顔を近づけてきた。驚きと、一瞬後に羞恥で顔に熱が集まる。そんなことお構いなしに不躾ににおいをかぐクダリさんは、なんというか、

「…ポケモンみたい」
「え?」

きょとんとした顔のクダリさんがなんだか可愛くて、普段は制帽によって隠れている意外とさらさらした髪を撫でてみる。気持ち良さそうに目を閉じるクダリさんを見て、カントーによくいるニャースを思い出した。イッシュのポケモンを扱うクダリさんに言ってもぴんと来ないだろうと口には出さなかったが、なんとなく、いつかこの人とカントーやジョウト、シンオウやホウエンを回ってみたいと思った。

あまいかおり






(110920)


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