恋に上下の隔てなし | ナノ



Hyperion

はねやすめ


他地方を旅して回ると、あらゆるものに驚かされる。それはポケモンの違いだったり文化の違いだったりするのだが、特に食は良くも悪くもいつも新鮮だ。口に合うものもあれば、残念ながら合わないものもある。だから私は非常食と共に故郷の食物を持ち歩いている。

「リオ!それなぁに!?」

しっかり馴染んだサブウェイマスターの執務室兼休憩室でお茶でもしようとお湯を沸かしている時だった。いつものようにクダリさんが部屋に入るなりタックルをかまし、背中にへばりつきながら私の手元を覗き込んで首をかしげた。何のことだと思って手元を見ると、抹茶ラテの粉末が入ったマグカップ。

「抹茶ラテのことですか?」
「抹茶?何ソレ?」

あぁそうか、抹茶はイッシュにないのか。なぁになぁにと肩を揺するクダリさんに閉口しながら、マグカップにお湯を注ぐ。湯気を立ててほんのり甘い香りが鼻孔をくすぐる。かき混ぜて粉末を溶かしてからクダリさんに差し出すと、匂いを嗅ぎながら恐る恐る一口飲んだ。味わいながら飲み下し、目を輝かせてマグカップを見つめるクダリさんを見る限り、どうやらお気に召したようだ。

「熱い!でもこれ美味しいね!」
「でしょう?ジョウト地方のものなんですけど、好きでインスタントを持ち歩いてるんです」
「へぇー!イッシュにもないかなぁコレ。あったら絶対流行るのに!」

おいしー!と嬉しそうに飲むクダリさんは無邪気で可愛い。結局飲み干されてしまったため、もうひとつのマグカップに再度粉末とお湯を入れかき混ぜる。一口飲むとふわりと口内に香りとほろ苦い甘さが広がって、あ、いつもの味だと和む。

「あっノボリ!」
「お疲れ様です、ノボリさん」
「ありがとうございます」
「ノボリノボリ!これすっごく美味しいの!」

クダリさんが空っぽになったマグをノボリさんに見せる。ノボリさんはそれをちらりと一瞥すると私にこれは何かと目で問いかけてきた。先程とクダリさんにした説明を繰り返し、一口どうですか、と湯気の立つマグを差し出した。クダリさん同様恐る恐る一口飲むと、珍しくノボリさんの表情が変わった。

「初めての味でございますが、なんと美味!ブラボーでございます!」
「お気に召したようで何よりです」

バトルの時みたいに目を輝かせて抹茶ラテを見つめるノボリさんが可愛くて、思わず頬が緩む。もう一口良いですか、という問いに、もういっそ全部どうぞと返す。自分の好きなものを好きになってもらえると嬉しいな、なんてほんわか暖かい気持ちになる。クダリさんも気に入ってくれたみたいだし、とクダリさんの方を向くと、マグを持ったままふるふると震え、ノボリさんを見ていた。はて、と首をかしげていると、

「ノボリずるい!ぼくもリオと間接ちゅーしたかったのに!」

ぼくもそのマグでもう一回飲むー!と喚き始めた。呆気にとられる私とノボリさん。いち早くクダリさんの言葉を理解したノボリさんは、「なっ…!そのようなつもりはございません!」と慌て始め、私はというと然程意識していないのを指摘されて逆に恥ずかしくなり目を泳がせる。ぎゃいぎゃい騒ぐクダリさんに珍しく慌てて止めるノボリさん。いつもはポケモンバトルばかりしているから、バトル以外で騒ぐのは初めてかもしれない。そう思うと何だか微笑ましくて、くすりと笑みが溢れた。
たまには、こんな日もいい。

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